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【プロレス】付き人時代の藤原喜明が見たアントニオ猪木の弱気な一面、モハメド・アリ戦を前に「勝てるかなぁ」 (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 東京スポーツ/アフロ

【試合前に揺らいでいた猪木の気持ち】

 ルスカに勝利した猪木は、約4カ月後の6月26日に同じ日本武道館で"最大の勝負"に出た。ボクシング世界ヘビー級王者モハメド・アリとの「格闘技世界一決定戦」だ。対戦が実現するまで交渉は難航を極めたが、猪木サイドは試合ルールを含め、アリ陣営の要求をすべて呑む形になった。

 猪木はアリ戦の直前、シリーズを休んで試合に備えた。スパーリングパートナーに指名されたのが、道場で群を抜く実力を示していた藤原だった。練習から私生活まで帯同したが、そこで猪木のいつもと違う一面を見た。

「毎日、心情が違う感じだったな。日によって躁になったり、鬱になったり。考えてみろよ。アリはマネージャーや練習パートナー、50人くらいの取り巻きを連れて来日してたんだ。そういう連中が、マスコミとかを使っていろんな情報を流してきたんだよ。例えば、アリはものすごく調子がよくて、ロードワークで何キロも走った......とかな。そうすると猪木さんは、『ヤバい』という感じで落ち込んでた。

 とにかく、張りつめていたな。思い出すのは......合宿所でセントバーナード(犬)を飼ってたんだけど、練習中に道場の扉を開けてたら中に入ってきたから、俺が『ダメだ』って言ったんだけど、猪木さんに『ナニ! この野郎!』と怒られてな。そういう些細なことにイラっとくるくらい敏感になっていた。

 そうかと思うと、次の日には、『アリの調子が悪くて練習ができなかった』なんて情報が流れてきて、猪木さんは『ヨシ』って元気になったり。だけど、そんなふうに一喜一憂しているうちに、やっぱり落ち込んでいくんだよ。これは俺の考えだけど、アリ陣営に、情報をうまく流して相手をコントロールする専門家がいたんじゃねぇかと。猪木さんもそれにハマっちゃったんじゃないかな」

 ある日の練習で、猪木がつぶやいた言葉が忘れられないという。

「猪木さんが俺に『勝てるかなぁ』って、ボソッとつぶやくように聞いてきたんだ。俺は『勝てます!』と何の迷いもなく即答したよ。そうしたら猪木さん、ニコニコして『勝てるよな。調子いいからな』って笑顔になってな。俺は『大丈夫です!』って念を押したよ」

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