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井上尚弥に「年齢的な衰えは感じない」 元ヘビー級王者が語ったモンスターの「本能を目覚めさせる相手」の名前 (2ページ目)

  • 林壮一●取材・文 text by Soichi Hayashi Sr.

 ティム・ウィザスプーンは井上尚弥ほどの名声も、富も得ていない。最盛期と呼べた時期にプロモーターのドン・キングに搾取されまくり、闘うことへのモチベーションを失ってしまったからだ。

 WBCタイトルは初防衛戦で、WBAのベルトは2人目のチャレンジャーに奪われている。キングを相手取って法廷闘争を行い、100万ドル近い和解金を得るが、すぐに蕩尽。4人の子供たちを守るためにと、45歳までリングに上がった。ラストマッチの半年前にはIBFで9位にランクされている。

 ウィザスプーンがボクサーとして長くリングに上がれたのは、打たせないボクシングを身上としていたからだ。

「現役時代にどんなに客を沸かせたって、パンチをもらいすぎたファイターのその後は哀しいよ。まともにしゃべれなくなったり、歩けなくなったり、失禁が止まらないなど、苦しむ姿を数えきれないほど目にしてきた。

 ディフェンスは磨くだけ磨くべきだ。理想は一発のパンチももらわないこと。そんなことはまず無理だけれど、目指さなきゃ技術は向上しない。

 カルデナスは、イノウエのパンチをたくさん喰ってしまった。彼はレフトフックをもう一発お見舞いすることばかりを考えていた。ロープを背負ってしまったら、抜け出す策を考えなければ。まぁ、モンスターのプレッシャーに、成す術を失ってしまったんだが。接近戦で右ストレートや右フックを当てても、やっぱり左フックで勝負したい、という狙いがありありと伝わった。もう少し、工夫が欲しかったよ」

【井上に「衰えは感じない」】

 WBA1位の挑戦者が、Uber、Lyft、DoorDashといったドライバーで生計を立て、この日に結びつけたことは、元世界ヘビー級チャンピオンの耳にも入っていた。

「苦労して磨き上げたレフトフックだからこそ、イノウエを倒すことができたと俺は見る。ハートのある選手だし、"強さ"を持ち合わせているから、もっと伸びるさ。努力して、努力して、モンスター戦を迎えたことを理解した。決して、負けるために連れてこられた選手じゃない。カルデナスは、きちんと経験を積めば、いつか世界王座に就けると思うぜ。彼の敗因は、大舞台に上がるのが初めてだったこと、イノウエとは経験値が違ったことだ」

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