山中慎介が分析する、判定が議論になった那須川天心の試合 ターゲットとなる王者・堤聖也と比嘉大吾の激闘も語った (4ページ目)
――ダウンの応酬となった9ラウンド、比嘉選手の左フックがヒットし、堤選手がキャリア初のダウン。その後、一気に決めにかかる比嘉選手が右アッパーを放った瞬間、堤選手の右ストレートがカウンターでまともに入りました。
「比嘉にとっては最大のチャンスですから、当然、前に出ますよね。でも堤は、そこを狙って完璧に打ち抜きました。スローで見るとよくわかりますが、堤は比嘉の動きをしっかり見ていて、ドンピシャのカウンターを放っています。ダウンした直後に、それができるのは本当にすごいです」
――前のめりに倒れた比嘉選手のダメージは相当大きかったでしょうね。
「両者1回ずつのダウンですが、ダメージは比嘉のほうが明らかに大きかったですね。レフェリーに止められてもおかしくないくらいでした。9ラウンド以降、堤は全ラウンドを取ってドローに持ち込んだわけですから、本当に大きな一発だったと思います」
――逆境から試合をひっくり返した堤選手の強さは、どこにあると分析しますか?
「一発のパンチの重さでしょうね。体勢を入れ替えても、しっかり体重を乗せて強いパンチを打つことができる。パンチのキレというよりは、重さ。スイッチしながら次々と強打を繰り出せます。そして何より、驚異のスタミナ。彼の多くの試合は前半ポイントを取られても後半に取り返しています。スタミナ、手数、気持ちが堤の強みですね」
――アマチュア時代から培ってきた経験も大きいですか?
「一見、変則的に見えますが、しっかりした技術がないとあの戦い方はできません。高校、大学とアマチュアで実績を積んだ賜物でしょうね」
――惜しくもベルトには届かなかった比嘉選手の今後については?
「武居戦に続いて惜しい試合でした。でも、あの試合を見たら周りがやめさせないでしょう(笑)。直近の2試合の内容を見れば、引退するのはもったいない。しっかりダメージを抜くことが最優先ですが、その後に、自分の気持ちがどうなのかゆっくり考えればいいんじゃないかと」
――中谷潤人選手の圧巻のKO劇も含め、ボクシングの面白さが詰まった2月24日の3試合、あらためていかがでしたか?
「これだけの選手が、すべてバンタム級というのもすごいですよね。かなり盛り上がった大会でしたし、ファンの間でも『次は誰と誰が戦うのか』という議論が活発になっています。あらためて、バンタム級がとんでもないことになっていると実感しました」
【プロフィール】
■山中慎介(やまなか・しんすけ)
1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。
著者プロフィール
篠﨑貴浩 (しのざき・たかひろ)
フリーライター。栃木県出身。大学卒業後、放送作家としてテレビ・ラジオの制作に携わる。『山本"KID"徳郁 HEART HIT RADIO』(ニッポン放送)『FIGHTING RADIO RIZIN!!』(NACK5)ウェブでは格闘技を中心に執筆中。レフェリーライセンス取得。ボクシング世界王者のYouTube制作も。
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