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ムエタイの頂点から吉成名高が描く未来 「ワクワクするものを求め続ける」 (2ページ目)

  • 篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro
  • 安川結子●撮影 photo by Yasukawa Yuko

【負けから学ぶこと】

――デビュー戦で敗れたものの、本場ムエタイに触れたことで火が付いた?

「ラジャダムナンで試合を見た時に、あの会場の雰囲気が本当に衝撃的で、ここに立ちたいと思ったんです」

――私も20年以上前にラジャダムナンでムエタイを観戦したことがあります。賭けの対象になっていることもあって、会場の熱気と独特の緊張感に圧倒されたのを覚えています。

「本当にすごい迫力ですよね。選手は家族の生活も背負って戦っていますし、お客さんも賭けているから必死なんです。日本の会場とは全然違います」

――現在35連勝中と連勝街道をひた走っていますけど、負けを経験したからこそ得た強さもありますか?

「最後に負けたのは、5年前くらい(2019年)になりますが、今でもよく覚えています。ラジャダムナンで負けた試合だったんですが、正直、悔しいというよりは"うまくやられたな"という感じでした。自分の攻撃だけを当てて、相手の攻撃は避けるという僕のスタイルを相手にやられてしまった感じでした。ですが、冷静に振り返ると『もっとこう動けたな』とか『こう対処すればよかった』と、反省点が色々と見えた試合でした。いま試合をしたら勝てるとは思いますけど、最後に負けたあの試合の悔しさは今でも覚えています」

――その経験が、今の強さにつながっているんですね。

「ただ攻撃を当てにいくだけ、倒しにいくだけでは勝てない、そういうことを学びました」

――吉成選手のムエタイ人生のひとつの転換点でもありますね。

「そうですね。僕は全勝にはあまりこだわりがないんです。もちろん、すでに負けを経験しているからそう思えるのかもしれませんが、ムエタイの名選手で無敗のまま引退した選手はひとりもいません。試合数が多いので、どうしても負けが付くこともあります。でも、そこで得られるものもすごく多いので。だから、毎試合100%勝つ、絶対勝つつもりではいますが、どこかで負けることもあるのかなとは思っています」

――今の圧倒的な戦いぶりを見ると負ける姿はとても想像できません。

「これは僕の考えなんですけど、ムエタイは、『その日、いちばん強い選手が勝つ』競技だと思っています。試合により適応した選手といいますか。実力だけでなく、その日のコンディションや試合の展開にも左右されます。たとえば、最初の打撃がヒットしたことによって、相手は焦ってしまっていつもの動きができなくなることもあります。実力では上回っていても、試合はどう転ぶかわからない。いま35連勝できているのは、勝負の神様に微笑んでもらえている、という感じがします」

――負けることに対して特別な恐れはない、ということですね。

「全力でやるだけ。自分のやるべきことを遂行するだけだと思ってリングに上がっています」

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