阿部詩「柔道は好きだから全部できる。それ以外は...」 五輪2連覇へ突き進む絶対女王の成長と意外な素顔 (3ページ目)
【柔道以外はすごく不器用】
――東京五輪の決勝も、昨年の世界選手権決勝も、立ち技から寝技への移行で勝負を決めました。その移行過程はとても地味ですが、相手の柔道衣の持ちどころなどは選手によって違いがあり、選手の個性がとても表れるところだと思います。ご自身で自分らしいと思う動きがあれば教えていただけますか。
「そこは詳しく話してしまうとライバルにバレてしまうので言えませんが、試合を観てくださる方にはこんなところを持ってこうやって返すんだとか、そういうのは注目してもらえるといいかなと思います。
そういう部分は選手それぞれ全然違いますし、それこそ選手の個性が表れる部分だと思うので楽しみに見てもらえるとうれしいです」
――立ち技についてはどうでしょうか。技に入る組み手のオプションも増えている印象です。もともといろいろな技ができると思いますが、ご自身ではどう思っていますか。
「たぶん、いろんな技はできる方だと思います。柔道以外ではすごく不器用な部分も多いんですが、柔道に関してはたぶん、器用な方なのかなと」
――柔道以外は不器用。
「そうです。私の場合、柔道だけに特化されているなって思っています。例えば折り紙を折ることなど、細かい作業ができるのかと言われたら全然できないんです。でも、柔道に関しては全部できるというか。柔道は好きなので、できないことがあってもできるまで取り組もうとするんです。だから、できるようになるのだと思います」
――なるほど。柔道はできてしまう。試合を見る限り、とても器用だなぁと思っていました。試合中の技の選択や展開の仕方にほとんどミスがなく、的確なので。
「試合中の判断については、ここを持たれると投げられるだとか、ここ持たれたら自分が不利な状況になるとか、そういうことを全部分析して、考えながら稽古をするようにしています。そのなかで投げられたりうまくいかないことをずーーっと繰り返しながら、試合のときはミスがないように作り上げていっているので、たぶん試合だけを見ている方は器用だと思われるかもしれません」
――はい。器用になんでもできるなぁと思っていましたし、対戦相手もそこが恐怖なのではないかな、と想像したりします。では、身体の感覚や使い方についてはいかがですか。ご自身の身体を自在に使い倒しているように見えます。腕も長いほうでは?
「腕の長さについては自分ではあまり考えたことはないのですが、たまに言われます。嫌なところ持ってくるね、とか、こんなところまで取ってくるんだ、とか。
身体の力については強いとよく言われますし、体幹は強い方だと思います。接近戦では負ける気がしないのでそれは自分の強みとしてはあると思います」
――なぜ強いと思いますか。トレーニングの成果でしょうか。
「遺伝だと思います。兄(一二三)も身体の力がすごく強いので、これは遺伝なのかなと思っています」
後編〉〉〉「母でも金」への憧憬 柔道家・阿部詩が目指す競技者として、人間として、女性としてのあくなき探求心
【Profile】阿部 詩(あべ・うた)/2000年7月14日生まれ、兵庫県神戸市出身。女子柔道52kg級。158cm。5歳のとき、ふたりの兄を追いかけ「兵庫少年こだま会」で柔道を始める。夙川学院中(現・夙川中)→夙川学院高(現・夙川高)→日本体育大卒。2023年4月からパーク24所属。2021年東京五輪金メダル。2018、2019、2022、2023年世界選手権優勝。IJFワールドツアーでは2017、2022、2023年グランドスラム東京を含む通算12勝。得意技は内股、袖釣り込み腰。組み手は右組み。講道館柔道女子五段。次兄の一二三(パーク24)は2021年東京五輪男子66kg級金メダリスト。
著者プロフィール
佐藤温夏 (さとう・よしか)
1972年生まれ、北海道出身。スポーツを主な領域とするライター、編集者。出版社勤務を経てフリーランスとなり、柔道や競泳などの五輪競技を中心に取材。パラノルディックスキー日本代表チームの広報担当経験があるほか、NPO法人で柔道およびスポーツを通じた異文化理解・社会活動にも携わる。
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