アントニオ猪木とモハメド・アリには共通点があった。実況アナが明かす試合前の10日間 (3ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by Kyodo News

 実際に試合のルールは、6月23日に発表されたものではまとまらなかった。試合当日まで両陣営の話し合いはもつれ、最終的に合意したのは試合直前。それでも舟橋は、「23日に報じられたルールだけでも中継で紹介すべき」と主張したが、プロデューサーは首を縦に振らなかった。

「『それも出すのはやめてくれ』という反応でしたね。猪木さんにとって圧倒的に不利なルールでしたから、『そんなものを視聴者に知らせたら試合が盛り下がる』と」

 難航したルール問題は、試合を中継する放送局内にも混乱をもたらしていた。そんななかで舟橋には、この試合がプロレスではなく「リアルファイト」になるという予感があった。

「さまざまな関係者が『猪木が本気になっている』と噂していましたしね。それでも私は、猪木さんはスポーツマンですから、アリに"とどめを刺す"ことはしないだろうとは思っていました。ルール問題もありましたし、事態がうまく収まるように、私は『引き分けで終わってほしい』と思いながら放送席のイスに座ったのを覚えています」

 舟橋が葛藤するなか、6月26日午前11時50分、猪木vsアリ戦のゴングが鳴った。

(4)猪木vsアリ戦で「ルールの詳細を視聴者に明かせなかった」実況アナ 「猪木にはこの戦法しかありません」と伝えられなかった>>

【プロフィール】

舟橋慶一(ふなばし・けいいち)

1938年2月6日生まれ、東京都出身。早稲田大学を卒業後、1962年に現在のテレビ朝日、日本教育テレビ(NET)に入社。テレビアナウンサーとしてスポーツ中継、報道番組、ドキュメンタリーなどを担当。プロレス中継『ワールドプロレスリング』の実況を担当するなど、長くプロレスの熱気を伝え続けた。

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