内山高志と交わした約束。
僕は「ヒーロー」を信じている (3ページ目)
その謙虚さは、一度サラリーマンを経験したからか、それとも人としてもっと根幹の部分なのか、何度防衛を重ねても、内山は決して驕ることがなかった。昨今、街を歩いていてサインを求められることが増えても、「えっ!? 俺なんかのサインが欲しいんですか?」と、いつも気恥ずかしかったと言う。
ある漫画家が、ボクシング漫画を立ち上げるにあたって、参考にしたいので話をうかがえないかと場をセッティングしたことがある。内山は快(こころよ)く引き受け、さらに謝礼を支払おうとすると、「異業種の方とお話ができて、いろいろ勉強になりました」と受け取りを固辞した。
どこまでも強く、どこまでも謙虚なチャンピオン――。それが、内山高志という男だった。
そんな内山に、「では、チャンピオンであることを幸せに感じる瞬間は?」と聞いたことがある。
「勝った翌日のファミレスでコーヒーを飲む瞬間が、最高に幸せですね。『今回も生き残れた』って。ただの普通の景色が、なんか輝いて見えるんです」
そう答えると、少しキザな言い回しになってしまったかな、と照れ笑いした。そしてもうひとつ、王者であることの幸せは、「少しだけ申し訳がたつこと」と続けた。
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