内山高志と交わした約束。
僕は「ヒーロー」を信じている (2ページ目)
試合前のルーティンを聞いたとき、彼は、「部屋の掃除をしてから家を出ること」と教えてくれた。
「試合後、病院に直行しなければならない場合など、僕以外の誰かが、部屋に最初に入る可能性があるので。部屋が汚かったら申し訳ないですよね」
どれだけKOの山を築こうと、心のなかで敗北はいつも隣り合わせだった。
しかし、6年3ヶ月ベルトを保持し、元WBAライトフライ級王者・具志堅用高が持つ13度防衛の日本記録に並ぼうとする目前、敗北が初めて現実となったとき、その胸に去来する想いは想像することすら難しい。簡単に、「もう一度、立ち上がってください」などと言うことは、はばかられる。
しかし、それでも期待してしまう。なぜなら、彼は内山高志だからだ。
『恐れず、驕(おご)らず、侮(あなど)らず』
内山はまさに、母校・花咲徳栄高校ボクシング部の部訓を地で行くボクサーだった。リング上では何者も恐れず、しかし一度リングを降りれば、どこまでも謙虚だ。
今は後援会の人数が増えすぎて難しくなったが、以前は試合後、チケットを購入してくれた後援会の人たちひとりずつ、直筆のお礼状を欠かさなかった。試合で利き手をケガすると、逆の手でお礼状を書いたことすらあった。
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