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足掛け21年。引退するピーター・アーツとの思い出を振り返る (2ページ目)

  • 布施鋼治●文 text by Fuse Koji photo by AFLO

 そして特筆すべきは、決勝で組まれたアンディ・フグ戦だろう。アーツのハイキックを避けるため、フグは右腕をカカシのように横に伸ばしたが、その対処が間に合わないほどアーツの蹴り足は早かった。もう30年近く格闘技を見続けているが、ハイキックに関していえば、あの時の一撃に最も大きな衝撃を覚えた。

 先日、その時のことを聞いたら、アーツは自分のピークのひとつだったとうなずきながら、リングを下りれば親友だったフグをかばった。

「自分のキャリアの中では、ベストタイムだったと思う。トーナメントは勝っても、すぐ次がある。あの時、決勝に上がった時点で僕は無傷だったけど、アンディは準決勝までの闘いで、すでにヘロヘロだった」

 アーツは、あの時代が懐かしいとも言った。

「あの時代、ともに闘ったアンディやマイク・ベルナルドとは、リングではまるで殺し合いのようなガツガツとしたリアルファイトをやっていたけど、試合後は一緒に飲みに行くような間柄だった。その中で、僕は一番最初にキックを始めて、一番最後まで残っている。古き良き時代は、僕で終わるということなのかな」

 2004年夏、当時月刊誌だった『スポルティーバ』の取材で、アーツの住むボルネという村を訪ねたことも、懐かしい思い出だ。アムステルダムからハイウェイを飛ばして1時間30分――。ドイツとの国境に近い、人口3000人ほどの小さな集落だった。

 なぜ、こんな地方に住んでいるのかと聞くと、アーツは即座に答えた。

「妻であるエスタの故郷だからさ」

 敷地面積は2000平方メートルで、建坪は500平方メートルを超えるという大邸宅に、アーツは住んでいた。夫の気持ちを代弁するかのように、エスタは故郷で暮らすメリットを語った。

「アムステルダムのような大都会より落ち着いているので、ここで暮らすほうがずっと快適よ。都会は犯罪も多いし、良からぬ薬に手を出す若者も多いから危なくて」

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