【総合格闘技】12年ぶりの再上陸。UFCジャパンで見えた日本格闘技界の未来

  • 石塚 隆●文 text by Ishizuka Takashi
  • NAOKI FUKUDA/WOWOW●写真提供

高いレベルの攻防を見せるベン・ヘンダーソン(右)とフランク・ エドガー(左)のファイトに、日本の格闘技ファンは酔いしれた高いレベルの攻防を見せるベン・ヘンダーソン(右)とフランク・ エドガー(左)のファイトに、日本の格闘技ファンは酔いしれた さいたまスーパーアリーナが大観衆で埋め尽くされ、その熱気に包まれた光景は、久しぶりの壮観だった。

 12年ぶりに日本に上陸したUFC。しかし、アメリカの一格闘技団体だった当時のUFCとは違う。2001年にズッファ社が運営するようになると、スポーツを管轄する各州のアスレチック・コミッションと提携し、厳格なルールを制定することで地位を高め、格闘技特有のアンダーグラウンドなイメージからの脱却に成功した。さらに、衛星放送のPPV(ペイ・パー・ビュー)をターゲットとしたソフトの充実を図り、他団体の有力選手を引き込むことで、多くの支持を集めていった。PRIDEの買収は、記憶に新しいところだ。そうして有力他団体を傘下に収めていったUFCは、現在、世界の格闘技の頂点に君臨している。

 しかし、格闘技人気が低迷する日本において、果たして客は集まるのか――。12年ぶりのUFCジャパンに対し、そんなネガティブな声が多く聞かれた。だが、結果は満員札止め。最寄りの駅前には「チケット譲ってください」というプラカードを持つ者まで現れた。日本の格闘技ファンたちは、この新しいソフトに大きな期待を寄せていたわけだ。

 会場の様子といえば、簡素のひと言。中央に鎮座したオクタゴンだけが、照明によって幻想的に浮かび上がっていた。PRIDE全盛期のメガイベントのように、装飾に凝った舞台装置や、選手が入場する際の花道など、演出を促(うなが)すものは一切なく、とにかくシンプル。とてもアスリート的というか、純粋に試合を楽しむといった潔(いさぎよ)さがあった。

 シンプルさは、会場に映し出される試合前のVTRにも表れていた。K-1やPRIDEでは、選手それぞれの背景を物語にし、映像化する『煽(あお)りVTR』が定番だった。しかしUFCは、簡単なインタビュー映像を流すだけ。すぐに選手は入場し、試合が始まる。そもそも煽りVTRは、地上波でテレビを見ているお茶の間に向けて、試合背景をわかりやすく解説するためのものだ。だが、UFCにそういった考え方はない。ズッファ社長のデイナ・ホワイトが「アメリカでやっていることを日本にそのまま持ち込む」と宣言していた通り、日本的な演出は排除されていた。唯一、あったとすれば、ランペイジ・ジャクソンがPRIDEのテーマ曲で入場し、観衆のノスタルジーを煽(あお)ったぐらいだろう。

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