パリオリンピック男子バレー 西田有志は「全部結果論。自分は納得できます」と言って虚空を睨んだ (3ページ目)

  • 小宮良之●text by Komiya Yoshiyuki

 イタリア戦後の取材エリア、ほとんど茫然自失になりながらも、西田は言った。頭が真っ白になるほど、人生をかけて戦ってきたのだ。

 最後の5セット目、デュースになった時、西田は仲間たちに笑みを向けていた。なかなかできるものではない。「絶対に勝てるから」というメッセージを込めていた。実際、彼は託されてきたボールを全身全霊で打ち込んでいたのだ。

 しかし、たった1点が重く、勝利は近くて遠かった。

「(金メダルという目標は)モチベーションになっていたし、(予選は)ストレスがあるなかでも戦って、やっと抜け出して。イタリア戦は、全員がベストパフォーマンスになっていましたが、負けてしまった。あれだ、これだ、と言われるかもしれませんが、全部、結果論でしかない。このバレーで(負けるなら)仕方ない。自分は納得できます」

 西田はそう言って、虚空を睨んだ。それは全力で戦ったものだけに許される言葉だった。

「(五輪で金メダルを取るには)技術をもうひとつ、ふたつ上げることですね。この1点、このひとつのボール。そこをしっかり突き詰めていくしかない」

 そう西田は言う。彼は「今」を全力で生きてきた。4年後のことなど、容易くは言えない。彼が残した「今」は歴史になる。激しく躍動する姿は、漫画や映画のヒーローのようだった。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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