江畑幸子が竹下佳江の10cm変更トスに「すごい」。ロンドン五輪の大一番直前にあった驚きの指示 (4ページ目)

  • 中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari

 試合当日の朝に、眞鍋が伝えたある指示も江畑の活躍を後押しした。

「いきなり眞鍋監督に『トスを少し短くしたほうがいい』と言われたんです。中国はサイドのブロックがストレートを絞めてくるから、トスを10cmだけ短くしてクロスを打ったほうがいいと。試合の朝のことでしたから、『10cmってどれぐらいだろう......』とちょっと混乱しました。私なりに10cm短いトスをイメージして練習に入ったら、テンさん(竹下佳江)が上げたトスがそのイメージとピッタリ合ったんですよ。そこで、『今日はいけるかも』と思いました」

 竹下は大会直前に、左手の人差し指を骨折していた。チームメイトに気を使わせまいと肌色に近いテーピングをしてケガの状態を隠していたが、江畑は「誰も直接は聞けませんでしたが、みんな薄々はわかっていました」と振り返る。

「いきなりの『10cm短く』という指示を、骨折した指で難なくやってのけてしまうのは、すごいとしか言いようがないですね。他の場面でも、トスに関して私のほうから『このくらいでお願いします』と要求したことはありません。例えばスパイクを打ったあとに『ちょっと今のトスは長かったかな』と思っていると、テンさんのほうから『ごめん、ちょっと長かった』と言ってくれて、すぐに修正してくれる。スパイカーのことを本当によく見ていて、理想の位置にぴったりトスを上げられる高い技術と信頼感があったから、私たちアタッカー陣も安心してプレーができたんです」

 中国戦は第1セットを逆転で制するも、その後はすべて2点差でセットを取り合う接戦でフルセットに突入。「最後の1点を取るまでまったく気を抜けなかった」という江畑は、得点を決めてもそれほど喜ばず、淡々とスパイクを打ち続けた。

 勝負を決めたのは、中道瞳のサービスエースだった。

「セットポイントになっても『まだまだ続くぞ』という気持ちだったので、その瞬間は『あ、終わっちゃった』みたいな感じでした」

 アジア最大のライバル中国を下した日本は、準決勝でブラジルに敗れ、3位決定戦へ。やはりアジアの"宿敵"である韓国を相手に、28年ぶりのメダル獲得をかけて戦うことになった。

(後編:引退を決断したリアルな経緯)

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