大坂なおみが「ダンス」で苦手なクレーを克服 "赤土最強の女王"を追い詰めた驚異の進化 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【「あなたを誇りに思う」と書き記した】

 ところが......このゲームでの大坂は、今までになかったいくつかのミスをする。

 30-15の場面では、サーブで崩しオープンコートめがけて放ったショットを、ネットにかけた。デュースの局面では、やや強引に打ったバックハンドがネットを叩く。最後はバックハンドが長くなり、土壇場でブレークを許した。

 そして、流れは反転する。2ゲーム後の自身のサービスゲームでは、2度のダブルフォルトで許したブレーク。

 試合開始から2時間57分──。大坂のバックのクロスがラインを割り、死闘に終止符が打たれた。シフィオンテクとハグを交わし、淡々とバッグを担ぎ出口に向かう彼女は、湧き上がる大歓声に手を振って応える。コートをあとにした彼女は、涙を流したという。

 その後に彼女が行なったのは、ノートに思いを書き止めること。それは数週間前から始めた習慣であり、バレエの師のエリオットの影響でもあった。

「書くことは、タメになる。たくさんの考えをクリアに見ることができるから」という彼女は、自分へエールを送るように、「あなたを誇りに思う」と書き記したという。

 試合から約40分後。会見室に現れた大坂は、穏やかな表情だった。それは終盤の逆転劇にも、自分にマッチポイントがあったことすら気づかぬほどに、目の前のボールに集中していたからにほかならないだろう。

 いい試合ができた喜びと、勝てなかった悔い、どちらが大きいか──?

 その問いに大坂は、答えを探すように小さくうつむき、しばし黙したあと、つと顔を上げてこう言った。

「マドリード大会で負けた時、チームのみんなに『私はまたトップ5に戻れると思う?』と聞いたら、肯定してくれたのを覚えている。今回は、準々決勝や準決勝に行けたわけではない。それでも、そこに戻る道の最中にいると感じられた。それが私にとって、何よりポジティブなこと。

 今回は、彼女(シフィオンテク)が得意なコートで戦った。私は『ハードコートの子』。だから今度、『私のコート』で戦った時に、どうなるのかが楽しみなの」

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