大坂なおみが「ダンス」で苦手なクレーを克服 "赤土最強の女王"を追い詰めた驚異の進化 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【数字ではすべてが相手有利を示していた】

 迎えた、今年の全仏オープン2回戦----。

 シフィオンテクと大坂の対戦が実現した時、果たしてどれだけの人が、大坂の勝利を信じただろうか? シフィオンテクは現代の「赤土の女王」であり、キャリアで2敗しか喫していない全仏のコートは彼女の「城」だ。しかも今年は、マドリードとローマの前哨戦2大会を制し、連勝街道を疾走したままパリに凱旋してきた。

 対する大坂は昨年7月に出産し、今年1月に復帰したばかり。しかもクレーコートは、大坂がやや苦手とするサーフェスである。

 紙の上の数字では、すべてがシフィオンテク有利を示していた。

 それでも大坂は、明言する。

「心から勝てると信じて、この試合に向かっていた」......と。

 今大会の開幕前、大坂はクレーコートでの動きを「ダンス」のようだと形容した。それは彼女自身がバレエダンサーに師事し、新たな動きを学んでいるからかもしれない。

 元プロバレリーナのシモーネ・エリオットをトレーナーとしてチームに迎えたのは、クレーシーズン前のこと。大坂のコーチのウィム・フィセッテは、その効能を「ナオミは柔軟性が増し、可動域が広がり、おかげで体を伸ばした状態でも力強くなった」と高く評した。

 果たして、シフィオンテク戦の大坂は、驚異の進化を遂げた姿をセンターコートで披露する。世界1位の強打を巧みにスライディングしながら打ち返すと、くるりと身体を回転させ、つま先で土を蹴り、逆方向へと走り出した。彼女がターンするたびに、スコートがふわりとひるがえる。センターコートの艶やかな赤土の上で、彼女はまるで踊るように、軽やかに舞っていた。

 第1セットはタイブレークの末に落とすも、第2セットは大坂のサーブがうなる。最速197kmを叩きだし、自身のサービスゲームで落としたポイントはわずかに1。赤土最強の女王が手も足も出せぬほどに、怒涛の攻撃でファイナルセットへと駆け込んだ。

 第3セットでも、大坂の勢いは止まらない。最初のゲームでブレークの危機を切り抜けると、続くゲームではリターンが火を噴く。早々にブレーク奪取すると、5-3で勝利へのサービスゲームまで疾走した。

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