錦織圭のアスリート本能を刺激したツアー復帰戦「若手と対戦することが、復帰へのモチベーションだった」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

【錦織不在時に台頭した新世代】

 大型選手の台頭による男子テニスの変化は、6〜7年前から顕在化した傾向ではある。ただ、その変遷を子細に見れば、この数年でパワー化の内容もまた変質しているようだ。

 コロナ禍によるツアー中断が「ひとつの転換期」だと言うのが、日本人トップ選手たちの共通見解である。コロナ禍が開け、ツアーが通常運転に戻りつつあった2021年のなかば頃、西岡良仁やダニエル太郎らは「若手が急成長している。テニスの質も従来より上がっている」と口を揃えた。

 特に、中堅からベテランに差しかかるダニエルの証言はリアルだ。

「若い人たちのテニスが、僕が若い頃とは違う。アグレッシブでハードヒッターが増えている。以前は、ハードヒットするがミスも多い若い選手が、ショットの威力を抑えることでミスを減らして強くなった。でも、今の若い選手は、ハードヒットしたままミスが減っている」

 それが、ダニエルの皮膚感覚だ。

 パンデミック宣言によりツアーが中断した間に、若手たちはひたむきにボールを打ち込み、球威はそのままに精度を上げていたという。

 それら「新世代テニスの体現者」としてダニエルが真っ先に名を挙げたのは、100位突破を目前にした当時17歳のカルロス・アルカラス(スペイン)。アルカラスが世界1位へと駆け上がったのは、そのわずか1年4カ月後のことだった。

 現在25歳のフリッツも、パンデミック間にショットの質を急激に向上させた選手のひとりだ。現に彼は2021年10月のBNPパリバオープン(インディアンウェルズ)を機に「あらゆる要素が噛み合い、フォアの精度と威力が上がったとの自信を得た」と明言している。

 果たして翌2022年、フリッツはツアー3大会で優勝。初のトップ10入りを決めたのは、10月のジャパンオープンを制した時だった。なお、彼がターニングポイントに挙げたBNPパリバオープンは、錦織がツアー離脱前に最後に出場した大会である。

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