大坂なおみ、出産→現役復帰後の道のりは...。女性スポーツの先端をいくテニス界の現状 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

【出産後にグランドスラム制覇】

 歴史をさかのぼれば、先駆けとなったのは、グランドスラム最多優勝記録を誇るマーガレット・コート(オーストラリア)だろう。さらには1970年代から1980年代にかけて活躍したイボンヌ・グーラゴング(オーストラリア)も有名だ。彼女たちはいずれも、出産後にグランドスラムを制している。

 記憶に新しいところでは、なんといってもキム・クライシュテルス(ベルギー)の衝撃が大きい。24歳の時に電撃引退したクライシュテルスは、翌年に第一子を出産すると、その約1年半後に現役復帰。直後の全米オープンを皮切りに、1年半で3つのグランドスラムタイトルを獲得したのだ。

 クライシュテルスの活躍が選手たちの出産観や常識を変えたのは、想像に難くない。それに伴い、テニス界の環境も徐々に変化を見せていく。

 グランドスラムを筆頭に、大きなツアー大会は会場に託児所を設け、保育士を雇うようになった。今ではすべてのグランドスラム(全豪、全仏、ウインブルドン、全米)に託児所があり、選手はもちろん、家族やコーチも子どもを預けることが可能だ。全仏では歴代優勝者などの"レジェンド枠"も増えたという。

 そのように先達たちが切り開き、整備してきた道を仕上げとばかりに舗装したのは、やはりセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)である。

 マーガレット・コートに次ぐ23のグランドスラム優勝記録を持つセリーナは、2017年、35歳の時に妊娠を公表。多くの人々が「さすがのセリーナも引退か」と囁くなか、出産の約半年後に復帰してファンを驚かせた。

 このセリーナの復帰により、妊娠・出産からの復帰支援システムを強化すべきだとの意見が、関係者や選手の間からも立ち上がる。果たして2018年末、WTAの選手評議会は「スペシャルランキングの見直し案」を提出し、トーナメント実行委員によって承認された。

「スペシャルランキング」とは、ケガや病、出産などにより長期ツアーを離脱した選手のランキングを凍結する救済措置。2019年から施行された新ルールの最大の改善点は、「出産以降の3年間、スペシャルランキングが有効」であること。従来は、復帰後最初の試合に出てから1年間しかスペシャルランキングは有効ではなかった。加えて行使できる大会数も、8から12に増えた。

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