全仏OP混合ダブルスVの真実。なぜ柴原瑛菜は誰と組んでも強く、男子の高速サーブを苦もなくリターンできたのか (2ページ目)
コンビ結成1カ月で全仏制覇
パートナーのウェスリー・クールホフ(オランダ/33歳)がインスタグラムのメッセージで「全仏で組まない?」とオファーしたのは、大会開幕の1カ月ほど前のこと。それまでふたりは、ペアを組んだことはおろか、言葉を交わしたことすらなかった。
事実上の初対面ながら、ダブルス巧者のクールホフが柴原に白羽の矢を立てたのには、当然ながら理由がある。
「彼女のプレーは何度か見たことがあった。サーブもリターンもいい。実際にプレーしたら、ボレーもよかった」
"パートナー"の武器を列挙するクールホフは、コート上で時間を共有するなかで、次のような「発見」があったと言う。
「すごくいい人で、よく笑う!」
自身も人懐っこい笑みを広げるクールホフは、こうも続けた。
「テニスをよくわかっているし、僕がミスしても『気にしないで!気にしないで!』と言ってくれる。心が広く、僕が『これやってみようか?』と提案すると、『やろう、やろう』と言う。気持ちもすごく強いし、彼女と楽しんでプレーできているよ」
ともにダブルスをよく知るふたりは、実戦のなかで互いのプレーの特性を知り、言葉を交わしながら、急速に連係を深めていった。
初戦こそ手探りのなかで第1セットを落とすも、逆転で切り抜けると加速する。
男女が交互にサーブを打つ混合ダブルスでは、女子選手のサービスゲームをいかにキープするか、そして女子選手が男子選手のサーブをいかにリターンするかがカギになる。もっともその点に関しては、柴原のリターンが弱点になる展開はほとんどなかった。
「わたしは小さい頃から、お兄ちゃんの強いサーブを受けてきた。それに対して、どうリターンしたらいいのかわかるので」
それが、本人が明かす、男子の高速サーブにも対応できる理由だ。
パートナーの特性を素早く見極める戦術眼。自ら言葉をかけ、前向きな姿勢と笑顔を絶やさぬコミュニケーション術。そして、パワーで勝る男性や年長者と伍して戦うメンタリティとテクニック----。
それらはいずれも、彼女が生まれ育った環境のなかで自然と吸収し培った、いわばテニスの"カルチャー"だ。即興的に組んだペアで頂点に立ったのも、そのような背景を思えば、決して運でも偶然でもない。
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