錦織圭、身長の低さを有利に転じた一手。GS通算99勝の経験値が生きた (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そのなかには、ミドルサンデーを挟み3日間にわたって繰り広げられたシモーネ・ボレッリ(イタリア)とのフルセットの精神戦がある(2015年)。最速サーブ記録を持つサム・グロス(オーストラリア)の剛腕を封じ込めた快勝もある(2016年)。

 それら踏破してきた足跡のひとつひとつが、サーブを武器とするポピリンを攻略する知恵と知識を錦織に与えた。

「リターンがキーだと思っていた」という錦織は、一般的にサーブの優位性が増すと言われる芝のコートで、リターン巧者が得られるメリットを次のように明瞭に述べている。

「芝だとリターンの時、ハードやクレーみたいに(ボールを)肩より上の高いところで打たされることはそんなにない。それがない分、コースが読めれば返せるのが、唯一、背の低い人が有利になるところです」

 その芝の特性を生かし、一発のリターンウイナーを狙うのではなく、確実かつロジカルなリターンからストローク戦に展開した。

「リターンがうまく入れば、すぐに攻撃に展開できるのが自分の有利なところかなと思います。真ん中でも深く返せば、そこからのポイントの組み立てがうまくできていた。相手のサーブはよかったですが、大事なところでリターンをしっかり沈められたのが大きかったですね」

 本人の言葉とおり、まさに大事な局面ほど錦織のリターンは相手の足もとを揺さぶり、ブレーク奪取の起点となった。

 第1セットは、まだ手探り状態の最初のゲーム。第2セットは、3度のブレークの危機を切り抜け、相手が気落ちした直後のゲーム。そして第3セットでは、互いにブレークチャンスを逃し、ふっと相手の集中力が途切れたゲームカウント4−4の第9ゲームを奪取。

 いずれのセットも、終始圧倒したわけではない。ただ、試合の流れを読み、相手の精神状態を見抜き、ここぞという場面ですっとアクセルを踏み込んだ。6−4、6−4、6−4の端正なスコアラインは、経験を生かし、芝目を読んだ勝利の証だ。

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