第5セットは錦織圭の「領域」だ。「自分すごいなと思います」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「また、5セット戦いたいのか----?」

 自身にそう問いかけた時、答えは、なかなか返ってこなかったという。

 第1セットは落とすも、第2セットは相手を打ち合いで圧倒し奪取。勢いを得て突入した第3セットも、続くゲームで2連続ブレークポイントを獲得し、一気に流れを掌握するかに思われた。

2試合連続でファイナルセットまで戦い抜いた錦織圭2試合連続でファイナルセットまで戦い抜いた錦織圭この記事に関連する写真を見る だが、結果的に4度あったブレークチャンスを逃すと、続くゲームを落としてしまう。赤土を巻き上げる強風がサーブのトスを乱し、上背とパワーに劣る錦織圭を悩ませもした。序盤の主導権争いに敗れた錦織は、そのまま第3セットを2−6で落とした。

 この時点で、すでに試合開始から2時間が経過していた。初戦で4時間4分のフルセットを戦っていた身体は、すでに悲鳴を上げ始めている。それなのに、勝つにはあと2セットを取るしか......つまりは、ファイナルセットを戦い抜くしかない。

 その事実を呆然と認識した時、本人曰く「魂が抜けた」。まだ戦いたいのか、戦えるのかと自問自答したのは、この時だった。

 第4セットをどう戦ったかは、あまりよく覚えてはいないという。

 「何も考えられない」なかでコートに立ち、それでも「身体は動きたくないけれど、動いちゃう」という状態だった。

 しかも第4ゲームでは、プレーが中断するほどの強風にもかき乱され、錦織がサービスゲームを落とす。この時点で、試合の行方が決した可能性も、十分にあったはずだ。

 だが、錦織の心は、敗北を拒絶する。

 続くゲームで、代名詞ともいえる早いタイミングのバックのダウンザラインを叩き込むと、リターンウイナーで掴んだブレークチャンス。エネルギー切れに見えるなか、突如息を吹き返した錦織のプレーに相手もひるんだだろうか。続く打ち合いでは相手のショットが長くなり、錦織はなんとか勝利への細い糸をつなぎとめた。

 対戦相手のカレン・ハチャノフ(ロシア)にしてみれば、直近の対戦である3週間前のマドリード・マスターズで錦織に敗れた記憶(7−6、2−6、2−6)が強く頭に残っていただろう。それだけにこの日の彼は、錦織の目にも「いつも以上にリスクを負って攻めてきたし、ショット選択やコースも変えてきた」と映っていた。

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