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第5セットは錦織圭の「領域」だ。「自分すごいなと思います」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 ただ、背負ったリスクは勝利を意識した時ほど、損失のほうに振れやすい。第4セットに入り錦織のネットプレーが増えたことも、ハチャノフの心に重圧をかけただろうか。

 互いに1ブレークずつ奪い、その後も両者ともチャンスを手にしては取り切れない、緊迫感のなかで突入した第10ゲーム。強打がラインを割っていくハチャノフのミスに乗じ、錦織がバックをクロスコートに叩き込んでブレーク......第4セットをもぎ取った。

 かくして試合は、第5セットにもつれ込む。そこは、錦織が「25勝7敗」と現役選手最高勝率を誇る、いわば彼の領域だ。

 今大会の初戦を勝った時に「5セットキング」と称えられた錦織は、自身がファイナルセットに強いことを知っている。それは「記録を維持しなくてはと考えて、プレッシャーにも感じる」肩書きだと苦笑いするが、同時に自信を与えもするのだろう。

 第4セットでは「魂が抜けていた」錦織が、相手の精神的な揺らぎを察知できるまでに、落ち着きを取り戻していた。

「ファイナルセットはブレークできる予感もあった。そこにチャンスがあるなと思ってプレーしていた」

 圧巻は、相手に2連続ポイントを許すスタートとなった第1ゲーム。ここから錦織は、ドロップショット、フォアのクロスのウイナー、バックのダウンザラインにサーブ&ボレーと、豊かなバリエーションで4ポイントを立て続けに奪う。これで流れを生み出すと、第4ゲーム、そして第8ゲームでもブレークポイントを手にした。

 結果的には、これらのチャンスは掴みきれない。ただ、その結果を落胆ではなく、「いつかブレークできる」と信じる根拠とした。

 お互いキープして迎えた第10ゲーム。「攻撃的に行こう」と心に決めていた錦織は、これまで以上に深く踏み込み、早いタイミングでボールを叩く。

 相手のダブルフォルトもあり3連続ブレークポイントを手にした彼は、それ以上、試合を長引かせることを望まなかった。力強いストロークで相手をコーナーに釘付けにし、右腕を一閃、強打を逆クロスに叩き込む。鮮やかに決まったこの日57本目のウイナーは、4時間の死闘に打つ終止符となった。

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