錦織圭、31才で変革の時。ネガティブ要素に打ち勝つことができるか (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 新たな声を得た錦織が何を求め、どこに向かっているかは、復帰後の彼のプレーが何より雄弁に物語っていた。

 ネットプレーが、明らかに増えている。

 とくに顕著だったのが、フルセットの死闘を制した全仏オープン1回戦。錦織がネットに出た回数は66にも至り、そのうち39回をポイントにつなげている。1ゲームあたり平均1.5回ほどネットに出た計算となり、ネットで奪ったポイントは、総獲得ポイントの3割近くを占めた。

 30歳で新コーチを迎えるとともにプレーを進化させ、ケガによる成績下降からの完全復活を目指す......。そのような錦織の歩みを思う時、彼の先を行くパイオニアとして頭に浮かぶのは、やはり、ロジャー・フェデラー(スイス)とラファエル・ナダル(スペイン)のふたりだ。
 
 ネットプレーに磨きをかけ、より攻撃的なプレースタイルを標榜したという点では、フェデラーとの符号が多い。

 フェデラーが、元世界1位のステファン・エドバーグをコーチにしたのは、2013年末。その年、フェデラーは腰痛に悩まされたこともあり、ツアー優勝は1回にとどまるなど、苦しいシーズンを送っていた。

 その状況を打開すべく、フェデラーが取ったアクションが「少年時代からの憧れ」をチームに招くことである。

 新旧人気選手のタッグにファンの期待が集まるなか、フェデラーが新コーチに最初に求めたこと......それは"思い出ばなし"だったという。

「ウインブルドンの決勝のあの場面では、何を考えていたのか?」

「当時の男子ツアーやロッカールームは、どんな雰囲気だったのか?」

 食事を取りながらも、フェデラーはまるで少年のように目を輝かせ、矢継ぎ早にエドバーグに質問を重ねたという。新コーチからフェデラーが得たかけがえのないものは、ひとつには、テニスへの無垢なる愛情と情熱だった。

 プレー面でも、サーブ&ボレーの名手を参謀につけ、ネットに出る回数が明らかに増えていく。

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