2019.08.26

錦織圭、少年時代の純粋な
情熱は変わらず。10度目の全米OPへ

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

 20代最後のグランドスラムですが、特別な思いは――?

 向けられたその問いが終わるより先に、錦織圭は困惑の色がにじむ笑みをこぼした。

「それ、一番苦手な質問です。何が正解なのかわからないですから、20代最後って」

20代最後のグランドスラムに挑む錦織圭 USオープン開幕を3日後に控えた、囲み会見での一幕。さらには同日の夕方に、滞在先のキタノホテルで行なわれた会見でも同じ質問を受けた錦織の顔には、聞くが早いか、苦笑いが広がった。

「とくに意識していなくて。例年どおりです」

 そう、ほがらかに応じるものの、同じ問いを繰り返し受けているうちに、彼の胸にはいつしか自然と、経てきた年月や重ねてきた経験が実感として染み込んでいったことだろう。

 初めてUSオープンの本戦に出場した時、彼はまだ18歳だった。

 同年2月にツアー初優勝を果たし、テニス界の表舞台に踊り出ていた錦織は、まるで品定めするかのような周囲の視線も受けながら、3回戦で当時世界ランク4位のダビド・フェレール(スペイン)をフルセットの死闘の末に撃破する。そのフェレールが昨年のこの時期に引退の意志を表明した時、錦織は「ここ最近で一番ショックなニュース。彼には、育ててもらったようなところがある」と悲しみを隠さなかった。

 さらに今年は、過去5戦全敗のヤンコ・ティプサレビッチ(セルビア)がUSオープン前に今季限りの引退を表明。そのニュースには、「すごくケガが多く、苦労してきた選手。そういう選手が辞めていくのは、切ないと同時に、自分も年を重ねているんだなって感じます」と、言葉に哀愁の音色を響かせた。

 それら、重ねた年月と実績に応じて高まる知名度や人気に、「なんで、こんなに有名になってしまったんだろう?」と戸惑うことは、一度や二度ではないという。それでも最近では、自分の立場を諦念とともに受け入れ、「責任感や正義感は確実に昔より増えている。あとの世代に自分ができることを探していかなくては、というのは常に考えている」と、まっすぐに明言した。