錦織圭が西岡良仁を強くした。
勝者の哲学を伝える「ヒーロー」の宿命 (2ページ目)
このような両者のメンタリティの差異は、初対戦のコート上で、プレーとスコアにも映し出されていく。
ウォームアップ時に、自身に向けられる歓声に軽く手をかざして応じる西岡に対し、錦織の動きはどこか硬い。さらには、この2週間ほど錦織を悩ませている「呼吸しづらい」という体調面の不安要素も、彼の表情を曇らせていた要因だ。
熱気が身体に張り付くような蒸し暑さのなか、長い打ち合いを避けたいとの思いがあったか、錦織に早いミスが目立つ。第3ゲームでは、2連続ダブルフォルトで招いた危機を、西岡につかれてブレークを許した。
それでも、ゲームカウント4−5の相手サーブをブレークし一度は窮状を切り抜ける。だが、タイブレークではミスが重なり、6連続でポイントを落とす。最後もダブルフォルトが飛び出し、第1セットを錦織が失った。
第1セットで、リードしながらも錦織にブレークされた時、西岡にはあらためて強くした思いがあった。
「一瞬でも引いたら、ブレークされる。リスクを背負ってでも攻めなきゃダメだ」
それは、ここ最近トップ選手たちの戦場に身を置く西岡が、身を持って実感してきたことである。同時に、彼が錦織を近く見るなかで、「僕も、もっとうまくなりたいところ」と感じてきた点でもあった。
相手のコート上でのポジションや、気持ちで引いた瞬間を見極め攻める戦略眼と、その際のプレーの正確性――。それら錦織から学んだ勝者の哲学を、西岡は第2セットでも実践する。
第7ゲームでは、錦織がサーブを入れに来るのを読み切ったかのように、踏み込みバックでリターンウィナーを叩き込んだ。ブレークした直後のゲームでブレークバックをされるも、第10ゲームでは勇気あるボレーを沈め、勝利に大きく近づくポイントを自らの手で掴み取る。
そして最後は、身体ごとボールにぶつかるようにバックのリターンを鋭く放つと、錦織の返球はラインを割っていく――。
2 / 3