2019.06.01

窮地の錦織圭を救った、
試合中に導き出した「確度の高いデータ」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 試合開始から3時間半を超え、スコアボードにはファイナルセット、0−3の文字が光っていた。

 全仏オープン3回戦で錦織圭が対したラスロ・ジェレ(セルビア)は、2月のリオ・オープンでツアー初優勝を手にし、わずか半年でランキングを50位以上ジャンプアップさせた成長株。さらに、ここ4カ月間でドミニク・ティーム(オーストリア)とフアン・マルティン・デル・ポトロ(アルゼンチン)を破るなど、トップ10選手と伍して戦う爆発力を秘めていることも証明済みだ。

フルセットの末に全仏ベスト16進出を果たした錦織圭 今回の錦織戦でも、23歳のセルビア人は持てる高い潜在能力を、大舞台で戦う高揚感で存分に引き出した。常にセットで先行されながらも、左右に打ち分けるフォアの強打で、そのたびに追いすがる。

 そうして突入した初体験の第5セットで、彼はこの試合最高とも言えるパフォーマンスを発揮する。フォアの強打はことごとくライン際に刺さり、あの鉄壁の守備を誇る錦織が見送ることしかできないシーンが続いた。

 2度のブレークを奪い、いきなり奪った3連続ゲーム。炎天下のなか、両者死力を尽くし、4時間近く戦った末のこのスコアは、試合の行方を決するに十分かに思われた。

 この時、人数では勝りながら、声量では劣勢だった錦織ファンから沸き立つ激励の大声援は、2ブレークダウンの絶望感を反映するものだったかもしれない。錦織の脳裏にも、負けるかもという思いが「多少かすめた」という。

 だが、同時に彼の理性は、「この3ゲームは相手がすごくよかったが、あんなハードヒットは続かない」とも告げていた。それは、ここまで4時間近く戦ったなかで得た、初対戦の相手に関する確度の高いデータである。

 錦織が未対戦のプレーヤーと戦う時、心がけるのは「相手のクセを見極めること」だという。試合前に動画などで見ていても、いざコートで打ち合うと、抱いていたイメージと実像が異なることは常にある。

 相手の好きなコースはどこか? 得意なポイントパターンは何か? そして、どの程度の実力の持ち主なのか――?

 それらのデータは、結局は戦いながら収集していくしかない。