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錦織圭、集中力のネジを巻きまくり。
「芝史上最高の出来」で快勝 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 この時点でキリオスは、「パニックに陥った」という。

 これまで常にサーブで試合を支配してきた彼には、「ほとんどの選手は自分のサーブに触れることすらできない」という強烈な自負があった。だが、錦織は自慢のサーブを、ことごとく打ち返してくる。思いがけぬ展開に「ナーバスになり、硬くもなった」彼は、絡まった心身の糸を解きほぐすことができなかったという。迫る夕闇を見て「(日没順延を)心配する余裕などない」ほど混乱したキリオスは、焦るようにサーブを打ってはダブルフォルトを重ね、わずか16分で第1セットを失った。

 第2セットに入っても、錦織のプレーの質は落ちない。だが、対するキリオスも、サーブの精度を上げてきた。セット序盤こそブレークを奪い合うが、以降は両者ともサーブを叩き込んでは、時計の針を刻むように規則正しくポイントを重ねていく。両者6ゲームずつ取り合うのに、要した時間はわずかに20分。沈む太陽を追いかけるように、第2セットはタイブレークへと駆け込んだ。

 このタイブレークの途中で、東の方角を示すようにスタンドの一角を照らしていたオレンジ色の光の帯も、客席の緑色に吸い込まれ、すっと消える。それと同時に錦織は、キリオス攻勢の長い打ち合いをしのぎ、執念でポイントを奪い取った。

 これを機にキリオスは、ふたたび心を大きく乱す。ダブルフォルトを犯し、続いてミスでセットポイントを与えると、爆(は)ぜる怒りとともにボールを客席へ打ち込み大ブーイングを浴びた。最後は、イチかバチかで放つキリオスの超高速リターンを錦織がフォアで捕らえ、コーナーぎりぎりに沈めるスーパーショット。ボールの行方を確かめ、噛みしめるように握った拳を、錦織は雄叫びとともに激しく振り上げた。

 この時点で時計の針は8時半を指し、ついにスタジアム内からは完全に陽光が失われる。それでも残り香のような光を頼りに、試合は継続された。

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