錦織圭、地元21歳「イノシシの突撃」をかわして全仏を快勝スタート (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 さらに彼は「このような姿勢が、いつか報われると信じている」とも幾度か口にしている。この日のためだけではない、この一戦をキャリアのターニングポイントにして、殻を打ち破りたいという渇望と情熱が若いフランス人を駆り立てていた。

 そんな挑戦者の猪突猛進が錦織を飲みかけたのが、試合開始から間もない第1セットの第5ゲーム。錦織のサーブを全力で引っ叩くジャンビエが、リターンウイナーを重ねて5本のブレークポイントを手にした。それでも錦織は冷静に、サービスウイナーや狙いすましたバックのウイナーで、最初の大きな危機をしのぐ。

「相手のテニスがまだ完成していないので、大事なポイントでミスしてくれた。攻められ続けていましたが、他の部分でなんとか補えた」

 後に錦織が分岐点をそう振り返れば、ジャンビエは「大切なポイントでは、こちらがどんなにいいリターンをしても、彼は崩れなかった。そのことに僕は苛立ってしまった」と悔いる。

 流れ的にはやや押されながらも、タイブレークの末に錦織が第1セットを奪ったときに、試合の趨勢(すうせい)はほぼ決まった。その勢いのまま第2セットは早々にブレークし、第3セットも終盤で4ゲーム連取した錦織が、終わってみれば7-6、6-4、6-3の快勝を手にした。

「序盤はちょっと緊張もありましたが、3セット目くらいで『楽しまないと』と......コートのなかでやっと思い出して。ちょっと気持ちが軽くなったりしました」

 約10ヵ月ぶりに身をさらしたグランドスラムの空気のなか、錦織は試合終盤になってようやく戦いを楽しむことができたという。

「なんか......困難なときも、このシチュエーションをどう組み立てていくかとか、どうやって逆転するかというのを考えるのが楽しくもあるので。楽しむ気持ちは、なるべく忘れないでいきたいです」

 試合前に覚えた緊張や重圧を振り切った錦織は、「楽しむ気持ち」を価値ある勝利とともに抱いて、2回戦へと歩みを進める。

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