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勝ったマリーが敗者のような言葉。
錦織圭は手応えをつかんで前を向く (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 それは決して、錦織が躍起に攻めたわけではない。むしろ一見すると、錦織はリスクを避け、打球を確実に相手コートに入れることを心掛けているようですらあった。ただ、その精度は極めて高く、球種が多様性に富む。

 相手コートをえぐるように鋭角に打ち込む、フォアのストローク。あるいはスローペースの打ち合いから、突如としてアクセルを踏み込んだように低い弾道でストレートに打ちこまれる、バックハンドの強打。それらを巧みに操り、ラリーを構築する錦織の前に、マリーは苛立ちを募らせた。ポイントを奪われながらも笑顔やガッツポーズを見せたのは、「フラストレーションが溜まってしまい、自分に対して皮肉な行動を取るようになっていたから」だと、のちにマリーは認めている。

 3本のブレークポイントを錦織が握りながらも、結果的にはモノにできずにもつれ込んだ、第1セットのタイブレーク――。ここでも主導権を握り、ポイントで先行したのは、錦織だ。

 先に手にした3連続セットポイントは、マリーのスーパープレーの前に逃した。だが逆に、マリーのセットポイントを19本のラリーの末にスマッシュを決めた時点で、錦織が勢いづく。最後は錦織の猛攻をしのぎ切れず、マリーのフォアがラインを割っていく。5本目のセットポイントで錦織が第1セットをもぎとったとき、試合開始からすでに1時間26分が経過していた。

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