マイケル・チャンは言う。
「錦織圭の夏は全米オープンが最優先だ」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 何かを悟ったように少しうなだれて肩を落とすと、錦織圭は相手コートまで足を運び、寂しそうな笑みを浮かべて、対戦相手のマリン・チリッチ(クロアチア)に握手を求めた。

 ウインブルドン4回戦――。それまでの3試合は、左脇腹に痛みを抱えながらも勝利を手にした錦織だが、この日は、「前の2試合とは比べものにならない」ほどの激痛が、彼に満足に動くことすら許さなかった。

練習中も仲のよいマイケル・チャン(左)と錦織圭(右)練習中も仲のよいマイケル・チャン(左)と錦織圭(右)「難しいのは、わかっていた......」

 勝利の可能性が限りなくゼロに近いことを予期しながらも、それでも彼は、第2セットの終盤までコートを去ろうとはしなかった。

「よく考えたら、あれで勝てるわけはないのに......」

 自分でも、理由はよくわからない。何かに取り憑かれたようにコートに立ち続けた彼は、最後はマイケル・チャン・コーチの声を聞き、棄権を受け入れることを決意した。

 そんな錦織の姿を見ながら、ファミリーボックスのチャンは、何を思ったのか?
 愛弟子のウインブルドンの戦いを、どう見ていたのだろうか?

「ケガをしたのは、とても不運でした」

 4回戦の数日後――。"ダブルス招待試合"のためウインブルドンに残っていたマイケル・チャンは、幾分和らいだ表情で言った。

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