【テニス】ツアー3勝目の錦織圭「優勝は当たり前じゃなくてはいけない」

  • 内田 暁●文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

昨年の楽天オープン優勝から5ヶ月。またも『ツアー500』を制した錦織圭昨年の楽天オープン優勝から5ヶ月。またも『ツアー500』を制した錦織圭 成長する、強くなるとは、こういうことなんだな......。錦織圭を見るたびに、そんな風に思わせられる。

 勝った試合より、敗戦や失敗から学ぶべきことがあるとは、多くのアスリートが口にする言葉だ。だが実際に、日々得る課題をひとつずつ克服し、確実に勝利や成績につなげていける選手が、果たしてどれほどいるだろうか? ましてやテニスは、常に1対1の個人勝負。敗戦の重みも、突きつけられた己(おのれ)の弱さも、すべて自分ひとりで受け止めなければならない苛烈な世界だ。

 その弱肉強食の世で、錦織は本当に強くなった。誰もが認める豊かな創造力とセンスに加え、18歳でいきなりツアー優勝を果たしたスター性。それらの才能にたゆまぬ努力で磨きをかけ、ケガの試練も乗り越えながら、常にまばゆい光を放てるまでに彼は研鑽を積んできた。その成果こそが、2月16日〜24日にアメリカ・メンフィスで行なわれた、全米室内選手権の優勝である。

 今回、錦織が優勝した全米室内選手権は、『ATPツアー500』と呼ばれるカテゴリーに属するトーナメント大会だ。『500』とは、優勝者が得られるランキングポイントを示しており、この数字がそのまま、大会のグレードだと考えることができる。

 テニスのツアー大会は年間に世界各地で約70が開催され、ひとりの選手が1年間に出場する回数は、20〜25大会程度が標準である。テニスの世界で最も栄誉ある『グランドスラム』は、全豪、全仏、全英、全米の4大会であり、それぞれの大会の優勝者が得られるランキングポイントは『2000』。この4大会を頂点とし、その下には『マスターズ1000』が9大会、そして今回、錦織が優勝した全米室内選手権を含む『ツアー500』が11大会と続いている。ちなみにその下に属するグレードが『ツアー250』で、これが40大会だ(錦織が初優勝したデルレイビーチ国際テニス選手権はツアー250)。

 昨年10月、東京で開催された楽天ジャパンオープンでの錦織の優勝は記憶に新しいところだが、この大会のカテゴリーもツアー500。つまり、錦織はわずか5ヵ月の間に、ふたつの500大会を勝ったことになる。

 これがいかに価値あることかを示す、データがある。現行のATPツアーカテゴリーシステムが施行された2009年以降、これまで46大会行なわれたツアー500をふたつ以上制したのは、錦織を含めわずか9選手。そこにはすでに引退した選手も含まれるので、ツアーにコンスタントに参戦している選手では7名しかいないのだ。しかもその7選手の中で、23歳2ヵ月の錦織は最年少である。

 日本のみならず、世界のテニス関係者が錦織に注目と期待を寄せる理由が、ここにある。ノバク・ジョコビッチ(セルビア/世界ランキング1位)、ロジャー・フェデラー(スイス/2位)、アンディ・マリー(イギリス/3位)、そしてラファエル・ナダル(スペイン/5位)のいわゆる『ビッグ4』を脅かす若手の出現を望むメディアやファンにとって、錦織の存在は『テニス界の希望』なのだ。

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