2020.11.02

小結・慶大が横綱・明大を破るサプライズ。
劇的サヨナラPGまでの道程

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • 長尾亜紀● photo by Nagao Aki

 これぞ、「魂のタックル」の勝利である。1日の関東大学ラグビー。日本ラグビーのルーツ校、慶大が伝統の猛タックルで強力な明大の攻めを分断した。ロスタイム。最後の最後、1年生フルバック(FB)の山田響が劇的な逆転ペナルティーゴール(PG)を決めた。

明大を破って喜ぶ慶大の選手たち

 13-12。新型コロナウイルス感染症対策のため入場制限(上限8千人)された秩父宮ラグビー場では、約7千人のマスク姿の観客が総立ちでスタンドから拍手を送る。グラウンドでは、黒黄のタイガージャージの選手たちが歓喜で跳びはね、からだをぶつけあった。

「ほんと、4年生の努力の勝利かなと思います」。オンライン会見。就任2年目の元日本代表の栗原徹監督は言葉に実感をこめた。

「4年生が、コロナ禍の自粛期間中、主体的に部の運営をやってくれました。そのおかげで、自ら考えて動くことが、例年よりできているのかな、と思います。何よりも選手全員が果敢にチャレンジしてくれたのがうれしいですね」

 最大の勝因となったタックルの強化策について聞かれると、監督は黒マスクの下の顔をほころばした。

「慶応大学(1899年創部)には120年の伝統がありまして、僕が何も言わなくてもみんな、タックルをよくするんです。120年の先輩方の努力の重みが彼らのからだに乗り移っていたのかなと思います」

 試合前、栗原監督は大相撲でいえば、明大を「横綱」、自分たちを「小結」に例えていたそうだ。でも、からだが小さくとも、鍛え、信じ、考え、挑みかかる気概があるなら格上にも対抗できる。地を這うタックル、バチバチと音が聞こえてきそうな肉体の衝突、しかも組織的に相手との間合いを詰める連係も備わっていた。監督は言葉を足した。

「タックルはすばらしかった。とくに組織ディフェンスが向上した印象があります」

 タックルで相手を一発で仕留めるから、ジャッカル(タックルで倒れた選手のボールを奪い取るプレー)も決まる。ターンオーバー(相手ボールの奪取)は相手の5本に対し、慶大は8本を数えた。

 勝負のアヤは後半15分頃だった。慶大フッカー(HO)の原田衛が、突進してきた明大フッカーの田森海音の足元に突き刺さる。足をかく。倒す。すかさずフランカー(FL)今野勇久がジャッカルを試みる。田森がボールを離さず、ペナルティーキックを得た。

 これを敵陣ゴール前のタッチに蹴りだし、ラインアウトからボールを列の後方に合わせ、フォワードが黒黄ジャージの塊となって押しに押した。トライをもぎ取る。ゴールも決まって、10-7と逆転した。