河村勇輝の挑戦は「3年計画」 日本人史上4人目のNBAプレーヤー誕生の背景とこれからの歩み (2ページ目)

  • 宮地陽子●text by Miyaji Yoko

【ツーウェイ契約:渡邊雄太の頃との違い】

 河村が獲得したNBAのツーウェイ契約は、NBAチームと契約したうえで、傘下のGリーグチームとNBAチームを行き来し、両チームで出場できる契約だ。本契約一歩手前の育成枠のような存在で、各チームがそれぞれ3人までのツーウェイ契約選手を保持することができる。

 ツーウェイ契約選手には、NBAチームで出場登録できる試合数(実際に出場時間を得るかどうかにかかわらず、アクティブ登録された試合数)の上限がある。基本的には各選手50試合までだが、開幕当初のグリズリーズのように、本契約のロスター枠15人すべて埋めていない場合は、その期間のツーウェイ契約選手の出場試合数は、全ツーウェイ選手の通算で90試合までという制限もある。これらは、サラリー節約のために契約金の安いツーウェイ契約選手で戦力を補完しようとするやり方を抑えるためのルールだ。

 NBAが選手育成のためにツーウェイ契約を導入してから、今季で8シーズン目となる。日本人では渡邊雄太がグリズリーズで2シーズン、トロント・ラプターズで1シーズン弱の間、ツーウェイ契約選手として過ごしているが、これは導入初期で、以来、いくつかのルールが変更になっている。

 一番大きな違いは、かつてはNBAでの活動制限が日数で決められていた(最大45日)のに対して、今は試合数(50試合)の制限となったこと。この制限のため、以前は練習に参加することもままならず、ベンチ入りできる試合数も限定的だったが、今では練習の参加に制限はなくなり、82試合中50試合までベンチ入りできることになったため、NBAで多くの経験を積めるようになった。

 また、サラリー面でも、渡邊のころはベースサラリーが定められており、NBAでの試合数に応じて加算されるシステムだったのだが、今は、NBAで試合登録されたかどうかににかかわらず一律でサラリーが決められている(ルーキーの最低サラリーの半額=今季はシーズン通して57万8,577ドル/約8679万円)。

 さらにツーウェイ契約選手の人数も、以前は各チーム2人だったが、今は3人に増えており、NBAチームのツーウェイ契約選手の活用は進んでいる。

【NBAデビューと今後のシナリオ】

 開幕2試合目でNBAデビューし、4試合目までは全試合でアクティブロスターとして登録されている河村だが、10月28日にGリーグのトレーニングキャンプが始まったことで、今後は活動の場をGリーグに移していくことになるだろう。

 その理由として、グリズリーズのロスターにおいて、現在ポイントガードはジャ・モラント、スコティ・ピッペンJr.で足りていることが挙げられる。実際、ベンチ入りした試合でも河村が出場したのは、点差がついた終盤だけ。もしふたりのうちのどちらかがファウルトラブルなどで出場時間が少なくなっても、マーカス・スマートやデズモンド・ベインら、ほかのメンバーで補うことができるというのが、コーチ陣の考えだ。実際のところ、グリズリーズではまだ河村のことをレギュラーシーズンでの戦力と見ていないことが、その起用法からうかがえる。

 そうであれば、今はNBAの試合でベンチに座っているよりは、Gリーグで試合に出て、経験を積むほうが河村自身の成長のためにもプラスとなる。この先、シーズン中に、ポイントガードが故障などで手薄となったときや、グリズリーズもハッスルもホームにいて、タイミングが合ったときにベンチ入りする試合もあるだろうが、主戦場はGリーグであり、そこでアメリカのバスケットボールに慣れ、フィジカルやサイズに慣れ、そのなかでの戦い方を見つけることだ。

 予想より早くツーウェイ契約を取り、順調な滑り出しを見せた河村のNBA挑戦だが、とはいえ、渡米前から本人が「3年計画」と言っていたように、今シーズンはまずはGリーグの試合で、アメリカでプレーできることを証明する期間となる。

 グリズリーズは、今季、ツーウェイ契約から本契約に昇格したピッペンJr.やジェイ・ハフだけでなく、渡邊と同時期にツーウェイ契約選手だったジョン・コンチャー、ビンス・ウィリアムズ、GG・ジャクソンら、ツーウェイ契約の間に選手を育て、チームに合う選手を次々と本契約に切り替えることでロスターを構築してきたチーム。それだけに、まずはグリズリーズのシステムのなかで必要な戦力と認められることが重要だ。

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