渡邊雄太が「千葉ジェッツ」「Bリーグ」にもたらすもの 日本代表への好影響も (3ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka

【自身の経験をプレーで還元】

 渡邊のBリーグ入りで、人々がもっとも注目するのは、やはりコート上でのプレーぶりだ。パリオリンピックが終わってから休養を取っていたこともあり、千葉Jでの練習にはまだ参加をし始めたばかり。しかも指揮官が新たにトレバー・グリーソン氏(NBAトロント・ラプターズのアシスタントコーチ時代は渡邊と一緒だった)になったことで、チームがどういうバスケットボールを展開し、そのなかでNBAでは3Pシュートとディフェンスが主な役割だった渡邊がどのようなプレーを求められるかは、現時点ではわからない。

 それでも、渡邊のBリーグ入りの影響が大きいものとなるであろうことは、間違いなさそうだ。日本代表の活動中、Bリーグチーム所属の選手たちは渡邊がNBAで行なっている取り組みを直接聞いたり、また彼の姿勢などを間近で見ることで刺激を受けている。同じようなことが千葉Jでも起こるだろうし、Bリーグが近年、選手移籍の激しいものとなっているだけに、渡邊のチームメートたちが他チームへ移っていくことなどで、影響は波及していくのではないか。

 このことは、日本代表の強化にもつながるものだ。昨年のFIBAワールドカップでの躍進から、パリオリンピックでは3連敗での敗退という失意の結果に終わった日本。両大会において渡邊ら限られた主力選手に出場時間が偏ったのは、チームの――つまりは日本バスケットボールの――層の薄さを示している。だが、NBAでプレーし、かつ長年日本代表の中心を担うなど、最高峰の舞台の経験を豊富に持つ渡邊の千葉J入りは、Bリーグ全体のスタンダードを引き上げる影響力がある。

 渡邊が言葉に少し力を込めて、言う。

「やっぱり僕は選手なので、プレーでリーグを盛り上げていけるようなことをしていかなきゃいけないなと思っています。自分がNBAで経験してきたこと、日本代表として世界と戦ってきたことをしっかりチームメートやリーグ全体に還元できるように、高いレベルのプレーをコート上で発揮していけたらなと思っています」

 渡邊は、言葉の人だ。態度の人だ。無茶だと周囲から言われたアメリカ挑戦を敢行し、苦難の日々だったNBA時代も、信念と固い意志で艱難辛苦(かんなんしんく)を耐え忍び、乗り越えてきた。だからこそ、見る者は彼に魅かれ、支持をする。

 206cmの立派な体躯は、それだけで人々の目を引き付ける。が、それよりも彼を魅力ある人物にするのは、険しい道のりを通ってきたからこそ培われた堂々たる言葉と態度だ。

 人々に畏敬の念を抱かせる「巨人」となって、渡邊雄太が母国・日本に帰ってきた。


著者プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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