日本屈指のオールラウンダー・宮澤夕貴が20カ月ぶりに代表合宿に 五輪金メダルへの「ピース」となるか? (2ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka
  • 加藤誠夫●写真 photo by Kato Yoshio

【気持ちを作ってここに来た】

宮澤夕貴はベテランとしてのリーダーシップも期待される宮澤夕貴はベテランとしてのリーダーシップも期待されるこの記事に関連する写真を見る

 ところが、その練度が上がっていく代表チームの構想に、宮澤自身が入ってくることはなかった。長年、日本屈指のオールラウンダーとしてその名を轟かせてきたにもかかわらず、代表候補となることすらなかった。

「なんで選考に入らなかったのかもわからなかった」という宮澤は、もう自身のパリ行きの目はなくなったと思うようになった。だからこそ「お楽しみリスト」を作って、シーズンが終わってから何をしようかと思案していたのだ。

 2023-24年シーズンのWリーグでは富士通のキャプテンとして攻守で八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をし、チームを16年ぶりのリーグ制覇に導くとともに、自身もプレーオフMVPを受賞した。サイズと速さ、精度の高い3ポイントシュートは、「走り勝つシューター軍団」を標榜する恩塚HCのチームにも合っているようにしか思えないほどだ。

 それでも、あるいはパリオリンピックの代表候補に入ってこないのではないか.........リストの発表まで周囲は注視した。

 はたして、「お呼び」は唐突にかかった。招集しても辞退しないかどうかを確認すべく、事前に恩塚HCからは事前の打診があった。1年半以上、音沙汰がなかったのだから、宮澤に複雑な思いがなかったわけではない。

「これ、どこまで言っていいのかわからないんですけど」

 久方ぶりの招集となり、彼女のなかでわだかまりのようなものがなかったのかと問われた宮澤は、苦笑しながらそう述べ、言葉を続けた。

「『そういう期間もあった』というのもあれですけど、人間なのでいろいろ思うこともあるので......でも、だからといって、日本のチームのためにやらないとか、こういうチャンスを自分でつぶすのも違うなと思いましたし、そこはひとりの人としてしっかりやりたかったので話もしっかりしたし、恩塚さんのバスケットに対応できるようにしていこうという気持ちです」

 日本代表は金メダルを目標にパリオリンピックへ臨む。無論、そこへ到達するのに平易な道が待ち受けているはずもない。

 金メダルという目標は、東京オリンピックでも同じだった。手は届かなかったものの、世界の強豪のなかで高さや身体能力で劣る日本が頂を見続けたからこその銀メダル獲得という、世界を驚かせる結果を残した。

 2022年のワールドカップ以降、選考対象とならず、心のなかに澱(おり)のようなものが溜まっていたはずの宮澤だが、日本が自分たちの力を信じ、全員のベクトルが同じ方向に向かなければ、オリンピックの金メダルのような大きな偉業は果たせないことを知っている。

 だから今は、もう迷いはない。

「東京の時も最初は自分がスタートじゃなかった。でも、12人全員が同じ方向に向かって進んでいくことでああいうチームになるので、あの時と気持ちが変わるとかはないです。(合宿に)呼ばれる前は全然、違ったんですけど、呼ばれていざ合宿に参加するとなった時に、そんな気持ちではこの場所に立てないと思いますし、しっかり気持ちを作ってここに来ました」

 やはり東京の銀メダルメンバーで、世界最終予選で自らも代表復帰を果たした馬瓜エブリン(デンソー アイリス)は、宮澤や町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)という国内外で経験豊富なベテランが合宿参加をしていることについて「チームが締まる」と話した。

 気がつけば、パリまで2カ月余りに迫っている。金メダルという高い山に再び挑む日本代表のロスター12名に、宮澤の名前は残るか。

【Profile】宮澤夕貴(みやざわ・ゆき)/1993年6月2日生まれ、神奈川県出身。岡津ミニー岡津中―金沢総合高(以上、神奈川)―ENEOS→富士通レッドウェーブ。ポジション:パワーフォワード(PF)、身長:183cm。日本代表としてオリンピックには2016年リオ大会(ベスト8)、2021年東京大会(準優勝)、ワールドカップ(世界選手権)には2014年、18年、22年と2014年以降の世界大会に連続で出場中。今季、Wリーグではチームを16年ぶりの優勝に導き、プレーオフMVPに輝いた。

著者プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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