Bリーグ・三遠ネオフェニックス、痛恨の敗退も地域との一体感を体現
Bリーグの年間優勝を決める『日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24』のクォーターファイナルが行なわれ、名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、広島ドラゴンフライズ、琉球ゴールデンキングス、千葉ジェッツのセミファイナル進出が決まった。
公式戦では中地区で初優勝を飾った三遠ネオフェニックスは、ワイルドカードの広島にまさかの2連敗で敗退したが、三遠の本拠地・豊橋市総合体育館は、日本バスケ界の活力を感じさせる熱気で覆われていた――。
三遠ネオフェニックス対広島ドラゴンフライズ戦に4022人の観客が詰めかけた豊橋市総合体育館 photo by Komiya Yoshiyukiこの記事に関連する写真を見る 5月12日、豊橋。三遠は広島を迎えている。
満員に膨れ上がった会場は、人気アーティストのライブにも似ていた。4000人以上の観客が、バスケットボールというスポーツでひとつにつながる。プロフェショナルなチアが、希望を届けるような明るい表情で鍛えた体を弾ませて踊り、観客が精力的に手拍子や応援ハリセンでリズムに合わせる。お互いの呼吸で熱気が立ち込め、気温まで上がる錯覚があった。
三遠は前日の第1戦で敗れ、背水の陣だけに力が入っていた。シュート練習で選手がダンクを決めると、自然に大きな歓声が沸き起こる。鼓舞するような拍手が場内に鳴り響いた。
「おかげさまで、すごく盛り上がっています。愛知全体で3チーム(三遠、名古屋、シーホース三河)が準々決勝に進んでいるのは、すごいことで」
三遠の関係者は言う。Bリーグは、それぞれのクラブが地域と一体になることで、アイデンティティを確立しつつあるのだろう。
「まず、地域に愛されたい、っていうので自分たちはやっている。"三遠(愛知県豊橋市、静岡県浜松市などの地域)で誇れる存在に"というので、ここまで来ました」
三遠の大野篤史ヘッドコーチも、そう証言している。
大野HCといえば、千葉ジェッツを率いた名将という印象が強いが、Bリーグ誕生前(2014-16)はこの日の対戦相手である広島に所属していた。地域に根付いたクラブにするために創設メンバーとして普及に苦労し、「当時は駅前でチラシを配っても、誰も受け取ってくれないことありました」と振り返っている。地道な戦いの歴史を今につなげることで、両チームはこの日、タイトルを懸けて対戦していた。
広島は前日に三遠を下し、準決勝進出に王手をかけていた。ただ、気を抜けば足元をすくわれる。公式戦終盤の5連勝でポストシーズンに滑り込んだ勢いを持続できるか。昨シーズンは準々決勝で、(準優勝の)千葉ジェッツに先勝しながら、連敗して敗れ去っていた。
Bリーグは群雄割拠。拮抗した勝負によって盛り上がりも増す。日本代表で人気の河村勇輝を擁する横浜ビー・コルセアーズもベスト8に手が届かないほどなのだ。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。