河村勇輝が観客の熱気を味方にする理由 苦しい時に一番輝くチームプレーヤー

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

 歴史を変える戦いをするアスリートは、誰にでもわかるような眩い輝きを放つものだ。

 バスケットボール日本代表、河村勇輝(22歳、横浜ビー・コルセアーズ)は"その領域"に入っているのだろう。2022年のFIBAアジアカップでMVP級の活躍。悲願だったパリ五輪出場を勝ち取る立役者のひとりになった。歴史を変えているのだ。

 その日も、輝きの片鱗があった――。

B1中地区6位から巻き返しを狙う横浜ビー・コルセアーズの河村勇輝	photo by AFLO SPORTB1中地区6位から巻き返しを狙う横浜ビー・コルセアーズの河村勇輝 photo by AFLO SPORTこの記事に関連する写真を見る 3月6日、横浜。Bリーグ、河村が所属する横浜は首位を走っていた三遠ネオフェニックスと対戦している。横浜は第1クオーターでは劣勢も、その後は盛り返し、拮抗しながら、最後は81対76で劇的な勝利を収めた。チャンピオンシップ(B1リーグにおける上位8クラブによるノックアウトトーナメントで、年間優勝チーム決定戦)進出に望みをつなげた。

 横浜は旗色が悪くなるたび、5番を背負う河村が"火を起こしていた"。

 第2クオーターの終盤、リードされた展開で河村がファウルを受け、2本のフリースローを確実に決め、同点に追いついた。その後、ジェロード・ユトフのシュートをアシストし、この試合、初のリード。相手のスリーポイントで追いつかれかけたところ、再び河村がカイ・ソットのシュートをお膳立てし、リードして第3クオーターを迎えられた。

「今日は首位、三遠さんとの対決、それも1カ月ぶりのホームで、負けられない試合でした。リーグトップのオフェンス、特にトランジション、リバウンドのところは、チームとして準備して臨めたのが結果に表れた」

 河村は言う。その覇気は十分に伝わった。

「(第二クオーターではフラストレーションも感じさせたが、という質問に)審判とのコミュニケーションは時に必要で、やりすぎない程度に......。そこは自分たちでコントロールできないところもあるので、フォーカスしすぎず、ポイントガードとして必要なオフェンスのところでコントロールできました。集中してプレーできたと思います」

 冷静と情熱のバランスが格別だった。

 そもそも、河村はポイントガードとして格別な存在である。2022-23シーズンはBリーグでMVP、ベスト5、アシスト王、そして新人賞を受賞。新人賞とMVPの同時受賞は離れ業だ。

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プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。

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