【NBA】40歳のS・ナッシュはなぜ引退を思い留まったのか? (3ページ目)

  • 宮地陽子●文 text by Miyaji Yoko photo by AFLO

 レギュラーシーズンが終わった後の会見で、ナッシュは心境をこう説明した。

「(ドキュメンタリーでの)お金についてのコメントは、批判されても気にせず、正直な気持ちを語るためには良い機会だと思ったから言った。そして、人からどう見られてもいいから、率直な気持ちを語りたいとも思ったんだ。これが真実なのだから。これまでは、あまり自分をさらけ出さないようにしてきた。しかし今こそ、自分の気持ちを率直に語る時だと思った」

 さらにナッシュは、こうも付け加えた。

「世界中の99パーセントの人より高い収入がありながら、『お金が欲しいから』と語ると、よく思われないのは分かっている。でも、それは自分にとって『当たり前』なことだし、この世界でプレイするなら当然のことだ。もし、今回の批判に対して謝ったら、それこそ間違った謙遜で、正直な言葉ではない」

 シーズン後半になって、ナッシュはコートに戻れるまでに復調していた。しかしそのころ、レイカーズがプレイオフに出られる可能性は、ほぼ消滅していた。チームからは、来シーズンに向けて若手のガードを試したいので復帰を見合わせてほしいと頼まれたという。

「それを言われて、1週間ぐらい考えた。自分としては82試合(レギュラーシーズン全試合)に出て、何の問題もなくプレイしたいと思っているけれど、実際、どうなるかは分からない。(チームの要請に)抵抗したい気持ちはあったけど、その一方で、チームが大事なのだということも理解できるから」

 結局、ナッシュはチームの要請を受け入れ、約5週間、試合復帰を延期し、練習にも参加しなかった。だが、シーズン終盤になって若手が続けて故障したため、再び試合に出る機会が巡ってきた。コートに戻ってきたナッシュのプレイは、まだ輝いて見えた。連戦で同じような輝きを見せられない課題はあったものの、ナッシュとしても、「まだできる」という手ごたえをつかんだようだ。

 シーズン後、「まだ楽しんでいますか?」という問いかけに、ナッシュは即答で「楽しんでいる」と答えた。

「(シーズン終盤に)出た試合はとても楽しかったから、もっとやりたかった。5週間も練習しないで戻ってきたのは馬鹿な行為だったかもしれないけれど、今、プレイしている時間は、すべてが楽しいんだ」

 プレイする喜びと、まだできるという手ごたえ――。それが来シーズン、41歳となるスティーブ・ナッシュの心の支えになっている。


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