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【NBA】40歳のS・ナッシュはなぜ引退を思い留まったのか? (2ページ目)

  • 宮地陽子●文 text by Miyaji Yoko photo by AFLO

 そんな中、ナッシュは引退が近づいた自分の姿を、ドキュメンタリー映像として残すことにした。現在進行形で故障に悩んでいる姿をさらけ出し、周りの批判に対して自分の本音をぶつけたのだ。

「ドキュメンタリーを作ることで自分を見つめ直し、自分のことがより分かるようになった」と、ナッシュは語る。「そのおかげで、今の自分を状況のせいにすることが減り、前向きで楽観的な気持ちでいられるようになった。そして、まだプレイできるという希望を持ち続けることができた」。

 ドキュメンタリーで引退間近のプロ選手(自分自身)を描写することで、ナッシュは誰もが経験する人生の節目の悩みや恐怖を描き、それを乗り越えて先に進む姿を伝えたかったのだという。

「これは誰もが経験することだと思う。たとえば作家なら、言葉を思いつけなくなるようなことだ。スポーツ選手の場合は、高校、大学、プロ......どのレベルであっても引退しなくてはいけない時が来る。僕の場合はプロで18年間、スポーツ中心の生活によってアイデンティティを築いてきたから、余計に大変なんだ。今までやってきたことが、急になくなってしまうことは恐怖だ。でも、そこから先に進まなくてはいけない」

 ドキュメンタリー映像の中に、レイカーズファンの間で物議を醸したシーンがあった。当時、故障でほとんどチームに貢献できていないナッシュに対し、いっそのこと引退してサラリーを返上してほしいという声が一部のファンの間から出ていた。「ナッシュが引退しないのはサラリーが欲しいからだ」と、公に批判する声もあった。2012年夏にレイカーズと3年契約を交わしたナッシュには、今季は約930万ドル(約9億5400万円)、そして来季は約970万ドル(約9億9500万円)のサラリーが支払われる。たしかに、故障でほとんど出ていない選手に払うサラリーとしては高い。チームを再建しなくてはいけないレイカーズにとって、ナッシュのサラリーが足枷(あしかせ)になっている面もある。

 そんなファンの批判の声を知っているナッシュは、ドキュメンタリーの中で、あえて、ずばりと本音を語った。

「引退しないのは、お金が欲しいからだ」

 もちろん、実際にはお金だけが引退しない理由ではない。バスケットボールが好きだという気持ちも強く持っている。事実、どのチームからも契約金がオファーされなかったら、サラリーなしでもプレイしたいとナッシュは語っている。しかし、このように発言したのは、バスケットボールはナッシュにとって仕事であり、サラリーは契約で約束されたものだからだ。

 サラリーの話をあいまいにして、「バスケットボールに対する愛情」というオブラートに包んだコメントで逃げる方法もあっただろう。しかし、あえてはっきりと、「お金が欲しい」と言ったのは、それもナッシュにとっての真実だからだ。

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