トヨタからF1ドライバーは誕生するのか? 中嶋一貴・TGR-E副会長に本音をズバリ聞く (2ページ目)

  • 熱田 護●取材・文 text by Atsuta Mamoru
  • photo by Atsuta Mamoru

【トヨタからF1ドライバーを目指せる】

ーートヨタは2002年から8シーズンにわたってF1活動を行なっていましたが、2009年限りで撤退しました。現在はF1でチームを持ったり、パワーユニット(PU)を供給したりしていません。トヨタの若いドライバーがF1とのつながりを持つことはできても、レギュラードライバーになるのは難しいのでは......と感じます。

 トヨタがF1と再び関わりを持ち始めたのは......あえてモリゾウ(豊田章男会長)さんと言わせてもらいますが、根底にはモリゾウさんのドライバーに対するというか、ドライバーとしての思いがあります。ドライバーは結局、みんな一番レベルの高いところを目指しますよね。モリゾウさんもひとりのドライバーとして同じ思いを持ってくださっています。

 今、トヨタが参戦する世界のレースはWECがトップカテゴリーですが、じゃあ、ドライバーが本音ではどこを目指したいのか、という話だと思います。やっぱりステータスでもクルマの速さでもトップはF1です。シングルシーター(単座席)で速さを極めたいというのがドライバーの気持ちとしてありますし、頂点といえばF1です。

 トヨタはWECしかやっていないからトヨタ系のドライバーはF1を目指せないというのではなく、トヨタの参戦していないカテゴリーであっても、ドライバー育成という観点ではF1を目指せる----。そんなモリゾウさんの思いが、今の平川選手や宮田選手の活動につながっていると思います。

 つい最近、モリゾウさんは「頂点を上げることが裾野を広げることにつながる」とおっしゃっていました。まさにそのとおりだと思います。ドライバーが頂点を目指して成長していって、僕や(小林)可夢偉みたいにF1を経験して、最終的に今、トヨタの一員としてレースに携わっています。

 レベルの高いところで戦ったドライバーたちが、自分たちが培った経験やノウハウをトヨタに返していくことで、結果的にトヨタのモータースポーツの幅は広がっていきます。そういう活動をトヨタとして今後も続けていきたいということだと僕は理解しています。

サウジアラビアで行なわれたF2第2戦に臨んだ宮田選手サウジアラビアで行なわれたF2第2戦に臨んだ宮田選手この記事に関連する写真を見るーーとはいえ、マクラーレンにいくら投資したところでレギュラードライバーの昇格は厳しい。トヨタがもっとF1にもっと深く関与していかなければ、トヨタ系のF1ドライバーが誕生する道は開いていかないと感じています。

 マクラーレンには今、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリという若くて速いドライバーがいます。レギュラー昇格が難しいのは事実ですが、何が起こるかわからないのがF1の世界です。まずは、そこにい続けることが大切だと思います。

 あとトヨタがこれまで以上にF1への関与を深めなければF1ドライバーの道が開けないと言われますが、僕は必ずしもそうではないと考えています。チームを持ったり、PUを供給したりしなくても、本当に速くて才能があれば、F1ドライバーになるチャンスはあると思っています。

 実際にピアストリがそうじゃないですか。でも今までは、仮にピアストリのような存在がトヨタのなかにいたとしても、F1を目指すチャンスはありませんでした。それが今はチャンスがあるんです。

 マクラーレンとの関係はトヨタがF1に関与する最初の一歩だと思います。まずは道をちゃんとつくっていくことが大事です。それをこれからつくっていくことが自分たちの責任だと思っています。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る