真夏の祭典・鈴鹿8耐は日本人にとって「心のふるさと」8時間という絶妙な設定が最高のドラマを生み出す (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●写真 photo by Takeuchi Hidenobu

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【ヘッドライトの明かりが幻想的】

 圧倒的な人気があったそんな時代と比較して、では現在の8耐はどうなのか、というと、たしかに観客動員数は減少している。1980年代末には16万人を数えたが、それと比べると今年の4万2000人という数字はいかにも少ない。

 しかし、真夏に多くの人々を集めるイベントがさほど多くなかった当時と、様々に魅力的な大型娯楽イベントが各地で開催される現在を単純に数字だけで比較するのは、やや条件の公正さに欠けるかもしれない。

 じっさいに、今年の8耐でグランドスタンド裏の特設ブースや販売テントなどを往来する人々をざっと眺め渡しても、年齢層は若者たちから家族連れ、高齢者夫婦と様々で、このイベントは今も幅広い年代に受け容れられていることが見て取れた。

 また、冒頭に記したとおり、今年は世界最高峰を戦うグランプリライダーたちの華やかな名前こそなかったとはいえ、EWCのレギュラーチームやSBK(スーパーバイク世界選手権)を走る様々な国籍の選手、そして日本の人気ライダーたちが勝利を目指して8時間の長丁場を戦うレースは、やはり独特の緊張感と、ほかでは味わえない醍醐味に充ちている。

 そんなふうに今も多くの人たちがこのレースに魅力を感じているのは、8時間というレース時間の絶妙な設定が巧まざる演出効果を持っているからだろう。

 鈴鹿8耐の決勝レースは、午前11時30分にスタートする。序盤の展開は、スプリントレースさながらのハイペースで激しいバトルが続く。かつてケニー・ロバーツは、8耐の攻略法について「グランプリのレースを8本走ると思って戦えばいい」と述べたという。それくらいに緊密な接戦が、序盤の展開を左右する。

 そして、8時間という長丁場の戦いでは、天候などのコンディションが不安定になることも多い。今年も、レース終盤が近づくと雨が降り始めて、表彰台圏内を安定して走っていた名門チーム、YOSHIMURA SERT MOTULのライダーが転倒するという事態があった。

 そして、レースが残り1時間となる夕刻6時半頃には、サーキット全体を薄暮が覆い、コースを走るバイクは三々五々とヘッドライトを点灯する。そして、日没後の午後7時半にゴールを迎えると、暗闇をヘッドライトの明かりが幻想的に切り裂きながら、ライダーたちは苛酷な戦いの果てにチェッカーフラッグを受ける。

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