レッドブルF1連覇を陰で支えた「レース戦略エンジニア」とは? 彼らは勝つために「40億通り」のシミュレーションを描く (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • photo by Oracle Red Bull Racing

最後は人間にしかできない

 ただし、それよりも大きなメリットだと言えるのが、演算速度だ。

「それが最も効果を発揮するのは、レース中のリアルタイムでのシミュレーションだ。25%のスピード増と言うと大したことのないように聞こえるかもしれないが、ラップごとの各シミュレーションを走らせるのにかかる時間が20〜30秒だから、つまり5〜10秒の時間がセーブできる。

 ピットインするかどうかの思考時間を、それだけ長くすることができる。シミュレーション結果に基づいて決断を下すためにより多くの時間を費やすことができるようになり、よりよい決断を下しやすくなるというわけだ」

圧倒的な強さを誇ったレッドブルの核を紐解く圧倒的な強さを誇ったレッドブルの核を紐解くこの記事に関連する写真を見る もちろん、シミュレーションが導き出すのは「この戦略を採れば、こういうレース結果になる可能性が高い」という答えでしかない。好結果を生み出す可能性が高いさまざまな戦略オプションのなかから、ドライバーのフィードバックやライバルの動きなど、理論だけではない"レース勘"と言われるようなものまで含めて、最適な戦略を選ぶ。最後は人間にしかできない仕事だ。

「シミュレーションが知らない要素は常にあるから、シミュレーション結果が100%というわけではない。たとえば、我々がタイヤマネジメントのために本来よりも遅いペースで走っていたとしても、シミュレーションはそれを知らないから、単純にそれが本来のペースだと考えてしまう。だから、我々はドライバーからのフィードバックも重要視しているし、それをシミュレーションにも反映させ、導き出されたシミュレーション結果をどのように"翻訳"するか、解釈するかが重要になる。

 しかし、シミュレーション結果が我々の戦略決定において非常に重要なインプットをもたらしていることは間違いないよ。シミュレーション結果を見たうえで、ドライバーたちからのタイヤをはじめとしたフィーリングのフィードバックを踏まえ、エンジニアたち、クリスチャン(・ホーナー代表)、エイドリアン(・ニューウェイ)らと話し合って決断を下すんだ」

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