中野真矢が加藤大治郎と繰り広げた熱戦。20年前、激動のロードレース界 (3ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 メインストレートに戻ってきたときにそのサインを見た中野は、ヘルメットの中で怒りに火がついたという。

「2位になるためにレースをやってるわけじゃないんだ」

 手を伸ばせば届くほどの眼前にいる加藤を追って、さらにスロットルを開けた。最終ラップは、通常ならタイヤが摩耗(まもう)し切っているために高レベルのタイムを維持できなくなる場合が多い。バイクがそんな状態になっていても、中野は最終ラップにレース中の最速ラップを記録した。

 にもかかわらず、距離は最後まで詰まらなかった。

 加藤が優勝、中野は0.707秒差の2位でチェッカーフラッグを受けた。

 クールダウンラップを終えてピットボックスへ戻ってきた中野は、珍しく荒れた。勝てなかった悔しさで涙ぐみ、ガレージの隅にあった備品を蹴り飛ばした。

 後年になって、このときのことを笑いながら振り返る。

「あのレースだけを見た人は、『なんでそんなに荒れるの?』と思うかもしれませんね。トップ争いでは僅差の距離が詰まらないことなんて、いくらでもありえるわけだから。でも、そこに至るまでのとても長い伏線、ストーリーがあるんですよ。大治郎さんはポケバイ時代もミニバイクでも、ずっと僕の前を走っていた。全日本でも、もてぎのレースでは勝てなかった。

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