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もつれる今季のMotoGP。「コロナ失業」を味わった苦労人が予想外の優勝 (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●写真 photo by Takeuchi Hidenobu

 19年にMotoGPへ昇格したクアルタラロとミルは、ウェットコンディションの決勝レースをまだ経験していない。ふたりはともにスタートで出遅れ、その後の展開に大きく影響した。一方、3番グリッドスタートのペトルッチはうまくスタートを決めて、1周目が終わったときにはトップに立っていた。

 その後も、ペトルッチは終始レースをリード。途中からは、チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾに2秒以上の差を開いて独走モードに持ち込んだ。

「グリッドで雨が降り始めたときは『おいおい、やめてくれよ』と思った」

 レースを終えたペトルッチは、やや苦笑気味にスタート直前の心境をそう振り返った。ペトルッチはドゥカティファクトリーライダーでありながら、いわゆるスター選手ではない。どちらかといえば「苦労人」という言葉の方が似合う経歴の持ち主である。スーパースターや人気者がなぜか持ち合わせる〈引きの強さ〉と言われるような強運ともあまり縁がなく、庶民的で悲哀に似た雰囲気を漂わせる人でもある。「せっかくの3番グリッドなのに、雨かよ......」と嘆く彼の心情は、いかにもこの選手の〈普通っぽさ〉というか、一般人らしい〈運のなさ〉をよく表している。

 ペトルッチは、2年前までドゥカティサテライトチームに所属していた。ファクトリーの実戦開発を兼ねたような役割で参戦し、惜しいところで優勝を逃がすことも何度かあった。そして、そのたびに悔し涙を照れ笑いで隠すような、そんな含羞(がんしゅう)の持ち主だ。

「おいおい、と思ったけど、でも、『雨でも行けるかもしれない』とも思った。雨ではいつも速かったし、表彰台も獲得しているから」

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