「ホンダの総力の結集」をF1責任者が語る。前半戦2勝は予想以上 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 それを、どちらにどのくらい配分するか。回生量をそんなに必要としないところでは馬力に変えるし、回生量を増やす方にも使える。燃焼系の性能は気象条件によっても変わってきますが、工学的な改良は気象条件に左右されることなく安定して、それだけ馬力が上がるんです」

 そもそも、F1復帰当初からホンダは、MGU-Hの信頼性に泣かされ続けていた。

 とくに、メルセデスAMG型のレイアウトを採用してターボのタービンとMGU-Hを結ぶシャフトが長くなってからは、高速回転するシャフトのたわみと、それを受けるベアリングの耐久性不足が大きな課題であり続けていた。

 それを打開したのが、ホンダジェット部門のシミュレーション技術だった。

 毎分10万回転で回る長いシャフトは、自動車の分野では存在し得ないものだが、航空機のジェットエンジンでは珍しいものではない。さらに人命を預かるがゆえに絶対にトラブルが許されない航空業界、そして5年・10年という長いスパンで製品化していく業界であるがゆえに磨かれたシミュレーション技術の高さが、F1用パワーユニットのMGU-Hの解決策を瞬く間に提示した。

「軸受けにしても、シャフトにしても、彼らからの提案を受けて設計して一発目からよくなったりすると、彼らの力やシミュレーション能力を認めざるを得ませんよね。彼らとしても、10年に1回世に出すような長いスパンで開発をやっていますから、失敗が許されない。よって、シミュレーション能力が非常に発達しているんです。そういうのを目の当たりにすると、HRD Sakuraでやっていたメンバーも、『これは彼らに頼ったほうがいいな』というふうに気持ちが変わってくるわけです」

 当初はHRD Sakura側にも、他部署に頼ることをよく思わない向きもあった。だが、自分たちにない知見を持った他部署が成果をもたらしてくれるとなれば、技術者として認めざるを得なかった。5年も10年も世に出ない期間の長い開発に従事している他部署の技術者たちもまた、F1のように極めて短いスパンで成果が問われる場所で結果を出していくことが成長につながった。

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