F1の心臓部を扱う白幡勝広「たたき上げメカニック人生」
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5月特集 F1 セナから20年後の世界
「ヘイ、カッツ! どうしてお前は一介のメカニックなのにそんなに有名なんだ?」
そう声をかけられた男の名は、白幡勝広。ウイリアムズの同僚たちが不思議そうな顔でたずねる。
2005年からメカニックとしてウイリアムズに在籍する白幡勝広 F1の世界におけるメカニックというのは、ドライバーやエンジニアのように自分たちの判断が勝負を左右するわけではなく、言うなれば顔の見えない裏方の存在だ。そんなメカニック個人にスポットが当たり、日本のF1ファンの間でその顔と名前が知られていることが、彼らにとっては理解できないらしい。
「日本人で、F1のネジを締めているのは僕しかいないですからね。世界で一番すごい最先端のものをいじっている夢の仕事です」
ウイリアムズでバルテリ・ボッタスのマシンを担当する白幡は、モノコックにエンジンをマウントする6本のボルトのうち、右側の3本を締めている。今年から大きく生まれ変わったパワーユニットの、まさにその心臓部に触れている日本人は彼ひとりなのだ。
ボディカウルの内部が極端に複雑化し、今年のマシン整備は時間も労力もこれまでとは桁違い。だが、多くのチームにトラブルが多発してメカニックたちが多忙を極める中、ウイリアムズのマシンは開幕前のテストから今に至るまで、これといった大きな問題は起きていない。
「ウチのクルマは、そんなに大変じゃないです。まず壊れないというのもあるけど、パワーユニットのパッケージングがすごく良くて、カウルの中もすごく綺麗にできているから、整備がしづらいという感じは全然ないんですよ」
火曜日からサーキットに入ってピットガレージの設営やマシン整備を始め、金曜の走行が終わればマシンを一度完全に分解し、土曜のセッションに向けてまた新たなパーツに換えて組み直す。そして、土曜日の予選や日曜日の決勝では、ピットストップのクルーを務め、目にもとまらぬ速さでタイヤ交換を行なう。耐火スーツとヘルメットで武装しているため表情をうかがうことはできないが、マシンが停止すると同時に外された右フロントに、新たなタイヤを取り付けるポジションについているのが白幡だ。レースウィークの期間も、このピットストップ作業の練習は何度も繰り返し行なわれ、肉体を鍛え上げるためにクルーたち全員でトレーニングも行なっている。
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