【F1】あきらめない男・可夢偉が心待ちにする「最後のパーツ」
モナコGPのコースを走るF1マシンのコクピットからは、華やかなモンテカルロの街並みなどほとんど見えないという。地上約70cmという高さに視線を落とせば、道の両脇のガードレールに視界の大半を奪われ、曲がりくねったコースは実際の道幅以上に狭く見える。
そんなモンテカルロの市街地サーキットで、小林可夢偉が所属するケータハムの2台だけが、異様にステアリングを左右に大きく切っているように見えた。
ケータハムの小林可夢偉は、モナコGPでは13位完走だった トンネルを抜けた先の低速区間、「ヌーベルシケイン」では、ステアリングを握る可夢偉の左右の手が、半周して反対側のコクピットの中へ隠れてしまうほどだった。
多くのチームはこの曲がりくねったサーキットに合わせて通常よりも舵角が大きくあたる特別仕様のステアリングラックに換装してモナコに臨む。小林可夢偉が2012年まで乗っていたザウバーもそうだった。
だが、ケータハムはそのステアリングラックを持っていないのではないか? コースサイドで感じていたそのことを尋ねると、可夢偉は苦笑いをしながら頷(うなず)いた。
「そう、ないんですよ。ステアリングをすごく切っているように見えるのは、やっぱりそれがないからでしょうね」
普段は自分からチームの苦境を語ることはしない可夢偉だが、このときは思わず本音が漏れた。
「(ステアリング操作で)忙しいですよ、『こんなに切ったっけなぁ!?』っていうくらいステアリングを切っている。どのコーナーでも大きく切っています。一番忙しい仕事をしているのに、誰も褒めてくれへんのやから悲しいよね(苦笑)」
予選を終えた可夢偉とそんな話をしている時、ケータハムのモーターホーム内に据え付けられたモニターに、ポールポジションを獲得したルイス・ハミルトンの車載映像が流れていた。真っ青な美しい港に面したこのパドックからは、対岸にモンテカルロの街並みが見えるが、可夢偉の目はモニターに向いていた。釘付けというよりも、どこか他人事のような視線だった。
「すごいねぇ。別世界やわ......」
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