アイビスSDは「千直」の新時代を築く4歳牝馬があっと言わせる

  • 大西直宏●解説 analysis by Onishi Naohiro

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 先週まで行なわれていた福島開催は、長い梅雨のおかげで最初から最後まで天候に悩まされて終わってしまいました。酷暑に苦慮した昨年と比べると、馬にとっては過ごしやすかったと思いますが、ジョッキーたちにとっては難しい状況だったのではないでしょうか。

 そして、今週末からは新潟開催が始まります。日本で一番長い直線を誇る、広々とした舞台です。北陸ではすでに梅雨明けが発表されましたから、いい馬場で、清々しい気候のなかでの競馬を楽しめることでしょう。

 その新潟開催の開幕週を飾る重賞が、今年で19回目となるGIIIアイビスサマーダッシュ(7月28日)です。直線・芝1000mで行なわれる国内唯一の重賞で、このレースに注目しているファンも多いのではないでしょうか。

 僕は現役時代、カルストンライトオで2度勝たせてもらったこともあって、このレースには特別な思い入れがあり、毎年楽しみにしています。最初に勝たせてもらった時の53秒7という勝ち時計が、今もコースレコードとして残っていることも、自らの関心度を高める要因になっているかもしれませんね。

 直線の芝1000m、いわゆる「千直」というレースは、見た目には真っすぐ全力で駆け抜けるだけの、とてもシンプルなレースです。しかしながら、実は駆け引きや作戦が非常に重要視されるレースなんです。ゆえに、千直がうまいジョッキー、そうでないジョッキーというのが、明確に分けられます。

 まず重要なのは、スタートです。そして、ゲートを飛び出してからのダッシュ力。千直に臨む馬は、基本的にその辺りに長所があると見込んで使われると思いますが、距離が短い分、とにかく出遅れは禁物です。相当な不利になることは間違いありません。

 ともあれ、スピードがあれば「勝てる」というわけでもありません。短い距離であっても、"道中のタメ"という要素はとても大切です。1000mだからといって、最初から最後まで全力で走り切ることはできませんからね。そのため、他馬の動きを見ながら、タメるタイミングと仕掛けるタイミングをうまく図っていくことが重視されます。

 このように、コースはシンプルでも、普通のレースにはない駆け引きが千直には必要です。僕は現役時代に多く勝たせてもらった舞台なので、乗っていても「楽しい」と感じるコースでしたが、千直に対する思いや印象というのは、ジョッキーによって異なるでしょうね。

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著者プロフィール

  • 大西直宏

    大西直宏 (おおにし・なおひろ)

    1961年9月14日生まれ。東京都出身。1980年に騎手デビュー。1997年にはサニーブライアンで皐月賞と日本ダービーの二冠を達成した。2006年、騎手生活に幕を閉じ、現在は馬券を買う立場から「元騎手」として競馬を見て創造するターフ・メディア・クリエイターとして活躍中。育成牧場『N.Oレーシングステーブル』の代表も務め、クラシック好走馬を送り出した。

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