【競馬】相棒・内田博幸騎手が回想する「ヴィルシーナ物語」
12月特集 アスリート、現役続行と引退の波間(12)
2013年、2014年と、GIヴィクトリアマイル(東京・芝1600m)を連覇したヴィルシーナ(牝5歳)。元メジャーリーガー・佐々木主浩氏の所有馬としても話題になった同馬は、12月28日のGI有馬記念(中山・芝2500m)をもって、競走馬生活に幕を下ろすこととなった。
12月28日の有馬記念を最後に引退するヴィルシーナ。 ヴィルシーナの主戦ジョッキーとして、多くのレースで苦楽を共にしたのが内田博幸騎手。2度のGI制覇においても、彼女の馬上には内田騎手がいた。そんな唯一無二のパートナーは、ヴィルシーナの引退を前に、こう語った。
「ヴィルシーナとは、悔しい思いをたくさんしてきましたし、それを乗り越えてGIを勝つこともできました。そして彼女は、『馬との接し方』における大切なことを僕に気づかせてくれました。ですから、ヴィルシーナには本当に感謝の言葉しかありません」
内田騎手の言葉にあるとおり、この人馬の物語は「悔しい思い」の連続から始まった。彼らがコンビを組み始めた2012年、当時3歳のヴィルシーナは、同世代牝馬の頂点を決める三冠レース(桜花賞、オークス、秋華賞)に挑戦する。だが、その3レースすべてで、ヴィルシーナは2着に敗れてしまったのである。
牝馬三冠レースで、いずれも彼女を負かしたのは、ジェンティルドンナ(牝5歳)。その後は、2012年、2013年と牡馬相手のGIジャパンカップ(東京・芝2400m)を連覇し、今年は海外GIのドバイシーマクラシック(3月29日/ドバイ・芝2410m)までも勝利。まさに歴史的名牝が、ヴィルシーナの前に立ちはだかったのだった。
相手が悪かったと言えばそれまでだが、それでも度重なる2着は「本当に悔しかった」と内田騎手は振り返る。
「競馬に携わる以上、相手がどんな馬であれ、勝つことが目標。いくら『ジェンティルドンナは強い』とわかっていても、僕やスタッフ、オーナーは悔しさでいっぱいでした。しかも、三冠最後の秋華賞(京都・芝2000m)では、ジェンティルドンナにハナ差まで迫ったんです。あのとき、ヴィルシーナは僕が驚くくらいのレースをしてくれました。限界を越える"がんばり"を見せてくれたんです。その分、余計に悔しかったですし、彼女にGIを取らせてあげたい、という思いが一層強くなりました」
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