【競馬】名伯楽が「運命」をかけたワンアンドオンリー (2ページ目)
昨夏デビューしたワンアンドオンリーは、当初もどかしいレースが続いていた。だが、クラシックホースを何頭も輩出しているラジオNIKKEI杯2歳S(2013年12月21日/阪神・芝2000m)で勝利を飾ると、一躍トップホースの仲間入り。そのまま、弥生賞(3月9日/中山・芝2000m)まで休養に入った。
この場合、調教師のいるJRAのトレーニングセンター(関東=美浦、関西=栗東)を離れて、育成施設に身を置くのが近年の主流。ワンアンドオンリーを所有するノースヒルズ(※馬主名義は同代表の前田幸治氏)も、大規模な育成拠点「大山ヒルズ(鳥取県伯耆町)」を有している。本来、そこで休養期間を過ごすのが常だが、ワンアンドオンリーは弥生賞までの2カ月以上を、栗東トレセンで過ごしたのだった。
そこには、こんな経緯があったという。大山ヒルズの齋藤慎ゼネラルマネージャーが打ち明ける。
「橋口先生が『(ダービーを勝つ)最後のチャンスかもしれないので、どうしてもワンアンドオンリーを自分で見ながら春を迎えたい』とおっしゃったんです。普通なら大山ヒルズに移動するところですが、橋口先生の話を聞いた前田(前田幸治氏)は、『それなら』と栗東トレセンで過ごすことに同意。橋口先生にすべてを任せました」
父ハーツクライを知り、ダービーの重みを知る橋口調教師。名伯楽のワンアンドオンリーに賭ける思いが、その決断にはこもっていた。
そしてこの休養期間に、ワンアンドオンリーは大きく成長した。復帰戦の弥生賞でトゥザワールド(牡3歳)のハナ差2着となると、続く皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)では、短い中山の直線を後方から強襲。4着と奮闘した。大外を回り、最後の坂を越えてさらに伸びたその力強さは、次に待つダービーの舞台、直線の長い東京競馬場での飛躍を確信させた。
「寒い時期に筋肉がついて、明らかに重厚さが出てきました。坂路での調教タイムも3秒くらい早くなっています。これらの成長はレースぶりにも表れていて、皐月賞の直線での追い込みを見たとき、これなら東京で行なうダービーは期待できると、手応えを感じましたね」(齋藤氏)
父ハーツクライと言えば、ジャスタウェイやウインバリアシオンなどの代表産駒がいる。それらに共通するのは、類まれなる成長力。ワンアンドオンリーも、その父の特性をしっかり受け継いでいた。
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