【競馬】宝塚記念で波乱を引き起こす、意外な穴馬
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
上半期の"グランプリ"宝塚記念(阪神・芝2200m)が6月23日に開催されます。残念ながら、オルフェーヴルが回避。11頭立ての少頭数となって、見た目にはかたい決着で収まりそうですが、思わぬ波乱があってもおかしくありません。
というのも、すでに熱中症が騒がれるような、暑い季節に行なわれるレースだからです。馬は、基本的には寒いところが好きな動物です。気温が上がると消耗が激しいため、前走を使ったあとのオツリ(余力)はあるのか、調整過程は順調なのかなど、レース検討には各馬の能力以外にも、チェックすべき重要なファクターが増えます。ただし、そうした要素は外部から見ているだけではわからないことなので、時に大波乱が起こることがあるのです。
血統背景に魅力があるローゼンケーニッヒ。
さて、波乱になるかどうかのカギを握るのは、レースの主力を形成し、人気の中心となる、明け4歳の3頭。昨秋のジャパンCを制して、3歳牝馬で史上初の年度代表馬に選出されたジェンティルドンナ(牝4歳)に、クラシック二冠(皐月賞、菊花賞)と有馬記念で勝利を飾ったゴールドシップ(牡4歳)、そして前走の天皇賞・春で悲願のGI制覇を成し遂げたフェノーメノ(牡4歳)です。
この3頭、能力的には大きな差はないと見ています。ならば、宝塚記念に向けて、3頭それぞれの馬に加点、減点があるかがポイントになります。
昨年の年度代表馬ジェンティルドンナは、いかにも牝馬という切れ味が武器。なおかつ、牡馬にも勝る勝負根性を持ち合わせています。その強さは、主戦が同じ岩田康誠騎手ということもあって、何かとブエナビスタと比較されることがあります。そして今回も、臨戦過程の類似から、当時のブエナビスタと比べられています。
今年3月、ドバイに遠征したジェンティルドンナ同様、ブエナビスタも4歳春にドバイ遠征を実施。ドバイ・シーマクラシック(UAE・芝2410m)で2着と好走しました。ブエナビスタはその後、帰国後初戦でヴィクトリアマイル(東京・芝1600m)に出走。見事勝利を収めましたが、相手のレベルを考えれば、物足りない勝ち方でした。おそらく、完全な状態ではなかったと思います。さらに次戦の宝塚記念でも、強い競馬を見せながら、ナカヤマフェスタに敗れました。やはり、海外遠征の影響が少なからずあったのではないでしょうか。
海外遠征に行けば、長時間の往復輸送だけでなく、帰国してからも検疫や着地検査があります。国内のレース後とは違って、調整にはかなりの苦労を強いられます。目に見えない疲労が残っていても不思議ではありません。
片や、ジェンティルドンナは今回、3月のドバイ遠征後、5月のヴィクトリアマイルを使わずに宝塚記念に臨みます。その分、ゆとりのある調整ができたと思います。しかし、繊細な牝馬です。ブエナビスタよりも気性が勝っているタイプに見えるので、(海外遠征の)反動が残っている可能性はあります。その点は、マイナス材料でしょう。まともなら、突き抜けておかしくありませんが、レース当日まで綿密に状態をチェックする必要があると思います。
減点材料は、ゴールドシップにもあります。前走の天皇賞・春(4月28日/京都・芝3200m)の不可解な敗戦(5着)です。レースぶりが、いつものゆったりしたものではなく、何か焦りを感じているような競馬でした。どこかで、(気持ちが)萎縮してしまうような出来事があったのかもしれません。
それでも、こういうタイプの馬は、問題になるのは気持ちの面だけ。前向きに競馬に臨むことができれば、十分に巻き返せるでしょう。また、強烈な"マクリ"が武器ですから、直線が短い内回りとなる今回の条件のほうが、この馬には向いているような気がします。
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著者プロフィール
大西直宏 (おおにし・なおひろ)
1961年9月14日生まれ。東京都出身。1980年に騎手デビュー。1997年にはサニーブライアンで皐月賞と日本ダービーの二冠を達成した。2006年、騎手生活に幕を閉じ、現在は馬券を買う立場から「元騎手」として競馬を見て創造するターフ・メディア・クリエイターとして活躍中。育成牧場『N.Oレーシングステーブル』の代表も務め、クラシック好走馬を送り出した。