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三笘薫、今季プレミア10ゴールの意味 日本史上、最もバランス感覚に富むアタッカーに

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

 本格派のストライカーに分類される選手は、言い換えればセンターフォワードだ。1トップ。点取り屋の異名があるように、ゴール数がそのまま評価の基準になる。レベルにもよるが、2試合に1点取るストライカーは超一流だ。常時先発を飾る選手ならば3試合に1点が及第点だろう。

 しかし、今季のプレミアで現在28点を挙げ、得点王の座をほぼ確実にしているモハメド・サラーは右ウイングだ。ウイングプレーをこなしながら得点にも関与する。ゴール前で待ち構える本格派ストライカーより、必然的にプレーの機会が多くなる。ポジションとしての人気は上がりやすい。

 クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシもいい例だ。いずれも本格的ストライカーではない。ウイング兼ストライカーだ。ヴィニシウス・ジュニオール、ラミン・ヤマルもここに含まれる。かつてサッカーで最も人気を集めたポジションと言えばトップ下だった。10番、司令塔。ファンタジスタなるイタリア語も流行した。中田英寿が活躍した時代だ。

 サッカーはそこから様変わりした。トップ下は2トップ下から1トップ下に概念を変え、中盤というよりFW色を強めている。ボールを操る時間は自ずと減った。相変わらず花形のポジションではあるが、見せ場は減った。一方で台頭してきたのがウイングだ。プレッシングの台頭と比例するように、今日のサッカーにおいて不可欠なポジションになっていく。

 ウイング兼ストライカーはその進化形だ。ドリブル&フェイントを披露しながら、ゴールも奪う。大外に張りながら、機を見て中央に進出。得点に絡むためには何よりサッカーセンスが求められる。それはバランス感覚であり、頭脳的な動きだ。この難しいテーマを解決しない限り、ウイング兼ストライカーは務まらない。

 プレミアリーグ第37節。リバプールをホームに迎えたブライトンは1-2で迎えた後半20分、サイモン・アディングラ(コートジボワール代表)に代えて、三笘薫を投入した。

リバプール戦で今季10ゴール目をあげた三笘薫(ブライトン)photo by PA Images/AFLOリバプール戦で今季10ゴール目をあげた三笘薫(ブライトン)photo by PA Images/AFLOこの記事に関連する写真を見る その直後、リバプールは右ウイング、サラーがウイング兼ストライカーのようなプレーで決定的なチャンスを迎える。サラーが放った近距離からの左足シュートは瞬間、決まったかに見えた。今季の得点を29点に伸ばしたかと思われた。ところがブライトンのGKバート・フェルブリュッヘン(オランダ代表)がこれを神懸かり的な反応でストップする。試合の流れはこれを機に変わった。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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